悠久のメソポタミア、イラクでの日々から
3つのメダルを獲得した、イラク・パラリンピック選手団の活躍!
8月24日から12日間の日程を終え、9月5日に東京パラリンピックも無事閉会式を迎えました。
今年はオリンピックからはじまり、新型コロナウイルスのパンデミック下の初めての五輪開催ということや、無観客開催となり約400億円のチケット収入がなくなる大赤字の大会ともなったことなど、今後総括が必要な大会ともなりました。
ただひとまず、大きな事故や事件もなく大会が終わってよかったです。
前半のオリンピックについては、以前の記事でイラク代表やイラクでオリンピックがどのように観られているのかをご紹介しました。
今回はパラリンピックに着目し、メダルを3つ獲得したイラク選手団の活躍、またイラクで障がい者が置かれている現状についてご紹介しようと思います。
イラクとパラリンピック
イラクは1992年のバルセロナ五輪の際に初めて、パラリンピック選手団を派遣しています。
オリンピックにおいては1960年のローマ五輪にて獲得した銅メダル一個のみですが、それとは対照的にパラリンピックでは今回の東京パラリンピックまでで合わせて合計74個のメダルを獲得する活躍を見せています。
今回の東京パラリンピックにおいては、2008年の北京パラリンピックの20人に次ぐ19人の選手が参加しており、4人しか参加していない(またその内1人は失格)オリンピック選手団との差をここでも感じます。
オリンピック選手団同様、パラリンピック選手団も今年の大会に際して多くの困難を乗り越えての参加となりました。
昨年より新型コロナウイルスのパンデミックによりトレーニング施設の閉鎖も長引き、また選手の多くが暮らす首都のバグダードでは自爆テロなど治安の悪化もあり満足にトレーニングが出来ない時期が続きました。
主な選手としては、2012年のロンドンパラリンピックでも銀メダルを獲得したファリス・アエイジリ選手がパワーリフティング男子107キロ超級(運動機能障害)にて銅メダルを獲得。
陸上男子やり投げ(低身長F40、41)に出場したウィルダン・ヌハイラウィ選手が銅メダルを獲得。
陸上男子砲丸投げ(低身長F40)に出場したガラ・トナイアシュ選手が銀メダルを獲得しました。
陸上女子100メートル(脳性まひT35)、陸上女子200メートル(脳性まひT35)に出場したファティマ・スワエド選手は14歳という、オリンピック、パラリンピックを合わせてイラク選手団史上最年少の出場選手となりました。
また卓球女子シングルスで最も障がいの重いクラス6に出場した16歳のナイラ・ダイエニ選手は、3歳の頃に自動車爆弾のテロに巻き込まれ辛うじて一命を取り留めたという背景もあり、日本のメディアでもその活躍が報じられました。
大会終了後、イラクに帰国した彼らの活躍を称え、パラリンピック選手団をカーズィミ首相が直々に迎えるといった対応もありました。
イラクで障がい者の人たちが置かれている現状
少し古いですが、WHOと世界銀行が共同で2011年に全世界で行った調査によると、全世界の人口の内15%がなんらかの障がいがあると見られています。
またその内の80%が低-中所得の国に暮らしていると見られ、イラクもその中に含まれています。
イラク政府による公式の統計が存在していないので正確な数は分かっていないのですが、長引く紛争やテロ、経済状態の悪化を受けて全世界平均である15%を遥かに上回る割合だろうと見られています。
イラクで暮らしていて障がいを負っている人を見ることもありますが、個人的に感じることは「障がい者は施しを受ける存在である」と人々によって見られているということです。しかしある意味それが、彼らのセーフティーネットになっているという側面もあります。
今年、国際移住機関(IOM)が発表したレポートによれば、イラクにおいて①障がい者に対する理解が市民の中において醸成されておらず、市民社会から除外された存在になっている、➁障がい者にはほとんど自立の機会がなく、収入が全くないという人も多く経済的に困窮している、③バリアフリー化が進んでおらず、教育への参加、施設へのアクセスなどが阻害されている、など、障がいを持つ人々が直面する厳しい現実が報告されています。
事実、地元のニュースでも過激派組織ISISと戦った負傷兵が政府に対して経済的な支援を求める、といった話題を目にすることは珍しくありません。
オリンピック同様、パラリンピックもイラクにおいて全く注目されませんでしたが、いつか彼らのパラリンピックでの活躍を通して、イラクで障がいを負った人たちへの理解にも繋がることを願っています。
著者プロフィール
- 牧野アンドレ
イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。
個人ブログ:Co-魂ブログ
Twitter:@andre_makino