悠久のメソポタミア、イラクでの日々から
イラクの社会起業家たちが集まるバザールへ
5月末のことになりますが、私が暮らしているイラクの都市アルビルで、イラクの若手社会起業家やアーティストたちが集まる一日限定バザールが開かれたので行ってきました。
在アルビル・チェコ領事館がクルド自治政府の協力のもと主催をし、インド、アルメニア、ルーマニアなど5つの国の領事館、また地元イラクやここクルド自治区から28のブランドが商品を紹介する、大きなイベントとなりました。
今回はその様子をレポートしたいと思います。
テーマ:ハンドメイド×クルディスタンの自然・文化×弱者支援
アルビルの中でも政府機関の建物や外国人向けのお店やマンションが近くにある、比較的裕福な区画にて開催されたこのバザールには、夕方に着いた時にはすでに多くの人で溢れていました。
会場ではクルド語やアラビア語にも加えて英語も飛び交っており、多くの外国人も訪れていることが分かりました。
主にクルディスタンの地元の若手起業家たち、特にイラク社会のために何かを行うとする社会起業家たちが多く出店しており、このバザールの収益の一部もここクルディスタン原産の樫の木を植える活動をしている団体への寄付に充てられるとのことでした。
会場にはアーティストが自分の作品を出展していたり、地元の貧困層の女性や、イラクに逃れている難民の人や国内避難民の支援を目的に、彼女たちの作った商品の販売をしている団体もありました。
特に写真のSisterhood Collectionという団体は、シリアから逃れてきた難民の女性たちの支援を目的に作られ、彼女たちが作った石鹼やロウソクを販売しています。
シンプルでシックなデザインと、全て化学物質なし、無添加の商品はどれも香り高く、目と鼻を同時に楽しませてくれます。
よく海外のブランドが「○○出身の難民の人たちが作ったものです」を売り文句にした(ちなみに決して非難をしている訳ではありません)商品などを見る機会があるかと思いますが、実は表になかなか出てこないだけで地元の企業やNPOが似たようなプロジェクトを行い難民や貧困層の支援を行っているというケースも多く存在します。
私も本業で似たようなプロジェクトも行っているため、もっと地元の人たちの活動にも注目しなければならないなと少し反省をしました。
またここクルディスタン産にこだわっている団体として、2018年に作られたMr. Erbilという紳士服会社も個人的には注目したいと思います。
主に生地はイタリアから取り寄せており、全てオーダーメイドの高級紳士服を販売するこちらの会社ですが、最近はクルディスタン産の生地を使った商品開発にも行っており、地元の麻を使ったシャツとネクタイを作っているとのことでした。(写真右下の商品)
Mr.Erbilの共同代表であるバーセルさんは丁寧に会社の成り立ちや彼らのもつ企業精神を説明してくれて、「商品を買わなくてもいいから、ぜひお店に遊びに来てお話しをしましょう」と言ってくれました。
クルド自治政府が中小企業に注目する理由
実はこういった若手起業家たちが出店するバザールのようなものはアルビルに暮らしていると何度か開催されているという情報を耳にします。そしてその度にメディアにも大きく取り上げられています。
背景には、クルド自治政府が中小企業の発展を同地域内の競争に繋げ、原油に依存をする経済構造からの脱却と経済の多角化を目指しているという理由があります。
イラクは労働者全体の内の公務員を占める割合が30%を超えており、その給与は歳入の90%を超える原油による収入に頼っています。
しかし世界が「脱炭素社会」に向け舵を切る今日、原油に依存を続ける経済構造に未来はなく、クルド自治政府もそのことを長く認識しています。
もちろん蔓延する汚職など、それ以外の課題も多いことは事実ですが、中小企業など民間の活力は経済構造の転換に大きく貢献することでしょう。
こんなものを購入しました
私は今回のバザールでは起業家さんたちの連絡先をもらい、商品は見るだけでしたが、以前にErbilianというブランド名で活動をしているアーティストの人が作成しているイラクの都市の地図などをモチーフにした絵を一つ購入していました。ちなみに彼は今回のバザールにも出店をしていました。
この写真の中にもある、薄茶色のアルビルの鳥瞰図をモチーフにデザインをした絵を私は以前購入しました。
アルビルは中心に位置するお城から同心円状に街が拡がっており、なんとも絵になる街だとこれを見て改めて思いました。
額縁もついて2,000円ほどで、お値段も手軽です。
日本でイラクと聞くと「戦争」や「貧困」といったイメージと結び付けられがちですが(残念ながらその側面も事実ではありますが)、彼らのような若い起業家たちが作る、エネルギーに溢れた国というのも、私はイラクが持つ大切な顔の一つであると思っています。
この記事を通して、イラクの持つ別の側面も知っていただけたなら嬉しいです。
著者プロフィール
- 牧野アンドレ
イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。
個人ブログ:Co-魂ブログ
Twitter:@andre_makino