悠久のメソポタミア、イラクでの日々から
病院の大事故とデルタ株流行 ―コロナ禍のイラク生活
7月も終わりに差し掛かり、ここイラク北部では連日45℃を超す猛暑日が続いています。
中部に位置する首都バグダード、南部のバスラでは50℃を超すことも珍しくなく、クーラーをつけていないと5分も経てば部屋が蒸し風呂のような暑さになってしまうほどです。
コロナ禍のイード休暇
さて、ここイラクも含めイスラム教が主流の国々では7月の3週目に「イード・アル=アドハー」、日本語では「犠牲祭」という名で知られる祝日がありました。
これはイスラーム暦(ヒジュラ歴)の内、巡礼月の10日に合わせた祝日で、イスラム教の聖典であるコーランに書かれている、イブラヒム(アブラハム)が神に息子を犠牲にささげようとした際に、神が羊を代わりに犠牲にさせたことを祝う日となります。
「犠牲祭」の名前で知られるように、この日に合わせてたくさんの羊が屠殺され、貧しい人々に配られ、食べられる日としても知られています。
地元の記事によると、この期間中にイラクのクルド自治区(人口約500万人)では一日に2,000頭を超える動物が屠殺されたと見られています。
今年の「犠牲祭」休暇は、うまく週末に繋がる曜日であったことで9日間の超大型連休となり、私自身も丸々休むことができました。
しかし今はデルタ株が蔓延するコロナ禍の世界。隣国のトルコやイランに軽い気持ちで旅行にでることもできず、酷暑の中で街に出るのも億劫ですので、家に籠って大人しく休暇を満喫していました。
こんなご時世の休暇ですが、友人に会ったり、同僚がイードの晩餐に招待をしてくるということもありました。
同僚宅では、ラムのひき肉を鉄串に巻いたものや自家製のソースにつけた鶏肉をバーベキューで焼き、パンに挟んで食べるというこっちの伝統的なケバブをいただきました。
食事後も停電が頻発する中でお茶を飲み、水たばこを吸ってゆったりとした時間を過ごしました。
イラクの新型コロナウイルス感染状況
イラクでは7月に入り本格的に新型コロナウイルスの第3波が始まっています。
7月26日には一日に12,185人の新規感染者がイラク全土で確認され、パンデミックが始まって以来初めて一日に1万人を超える感染者を記録しました。
それに伴い死者数も増え、コロナ対応を行っている病院でも病床が確保できないという状況が報告されてきています。
しかしイラク政府の役人や医療従事者の訴えも虚しく、街中でマスクを着用している人はこの酷暑の中ほとんど確認できず、感染者の増加に歯止めをかけることができていません。
イラクの宗教機関も人々にワクチンを接種するように呼び掛けており、それが功を奏してか病院に人々がワクチンを求めて殺到する様子なども見られています。
イラクではまだ人口の1%弱しか新型コロナワクチンの接種が完了していませんが、今後増えることを願います。
デルタ株の流行と病院火災
イラクでは感染者が増える中にあっても、今現在世界で猛威をふるうデルタ株の検出は長らくされてきませんでした。
しかし7月16日にクルド自治区内で初めてデルタ株の感染が確認されたことを皮切りに各地でデルタ株の流行が確認され始めています。
ここ数日の感染者の急増も、感染力の強いデルタ株の影響であると見られています。
またイラクでは新型コロナウイルスの影響だけでなく、それを治療する病院での悲劇も起きています。
4月26日には首都バグダードのコロナ治療専門病院で酸素ボンベが爆発し火災が発生、82名が亡くなるという悲惨な事故が起きました。この事故の後、保健大臣は責任をとり辞任しました。
また7月13日には南部ナシリーヤ県のコロナ治療の専門病院でまた酸素ボンベの爆発が原因とした大規模火災が発生。64名が死亡し、70名以上が負傷しました。
これらの事故は、イラクの脆弱な医療インフラを象徴する事故とも言えます。
イラクではコロナの感染の拡大に加えて夏場の酷暑、また医療サービスの欠如が、市民の生活にさらなる重石を与えています。
著者プロフィール
- 牧野アンドレ
イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。
個人ブログ:Co-魂ブログ
Twitter:@andre_makino