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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

イラン難民がアルビルの国連前で焼身自殺未遂

アルビルにある難民キャンプ ©筆者撮影

今月18日、衝撃的な映像がここイラクのSNSに流れました。

アルビルに暮らす25歳のクルド系イラン人の男性が、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のアルビル事務所前で焼身自殺を試みて病院に搬送されるという事件がありました。この男性をメディアが取材し、カメラが回る前でガソリンを被り火を点けたことからもその後この映像が大量に拡散され、多くの人が知ることとなりました。

このイラン人男性は政治難民として4年前にイラクのクルド自治区に逃れましたが、仕事もなく支援もなく、家族持ちが優先されるUNHCRの第三国への定住プログラムにもほとんど希望なく、周りのコミュニティに支えられやっと生活ができる状態でした。

彼は友人とともに窮状を訴えるためにUNHCRのオフィスを訪問しましたが門前払いをくらい、それに抗議すると自殺を試みる直前にメディアに向けて話していました。UNHCRのメディカルチームがすぐに現場に駆け付けたことで治療は直ちに行われ、男性は一命を取り留めました。

  

抗議デモとメディア批判

この事件がメディアで報道されると翌日、男性と同じような境遇のイラン難民たち数十人がUNHCRの事務所前に集まり抗議活動を行いました

参加者によると、国連は政治的な理由で祖国を逃れたイラン人の支援を他の難民グループに比べて顧みておらず、難民認定にも何年もかかっている。人としての基本的な権利を保障してほしいと主張しています。

このデモは事件から5日が経った今日も続いており、国連事務所の前ではテントが張られています。

UNHCRは声明で、男性の早期の回復を祈り、今後も国籍に関係ない公正な難民登録手続きと支援を継続させていくと発表しました。

また、批判はメディアに対しても行われています。男性がガソリンとライターを手に持ち、今にも自分に火を点けそうな状況も静観し止めようとしなかったことを批判するコメントもSNSなどには溢れました。クルド自治政府も同様の批判を展開し、メディアガイドラインの順守を求めています。

  

クルド系イラン人の現状

イランにおけるクルド人など少数民族への抑圧はアムネスティ・インターナショナルなどの人権団体のレポートなどでも報告されています。

イランからの自治権や分離を求めるクルド系政党をイラン政府は徹底的に弾圧しており、ここイラクのクルド自治区のメディアでもしばしば、イラン人活動家が処刑されたニュースなどが流れています。

今日、イラクのクルド自治区には約1万人のクルド系イラン人の難民が暮らしていると見られています。しかし難民登録をしている人だけでも30万人近くになるクルド系シリア人など、メディアでも注目されるグループの人々でも生活が苦しい中、マイノリティであるイラン人は労働許可も取りづらく、支援もさらに行き届いていないと見られています。

また、彼らが避難しているクルド自治政府もイランとは難しい関係にあります。イランはスンニ派のサダム・フセイン政権時代にはクルド人を支援し、イラク中央政府の政策に干渉しようと試みてきました。またここ数年も経済的な繋がりやクルド自治区内の政争に関わることで影響力を増してきています。

私自身、以前友人を通じてイラン人の方とここアルビルで知り合いましたが、彼はイラン-イラク戦争の際に1歳で難民となり、イラクの難民キャンプを渡り歩き生活をし、40代になり最近やっとアルビルで自分の店を持ち生活ができるようになったと言っていました。

しかしイラン政府も隣国に逃れた難民を国民とは認めず、イラクに帰化することもできず、彼はほとんど人生の大半を過ごすイラクで無国籍として暮らしていました。

  

焼身自殺未遂をした男性のその後

抗議活動の発端となった焼身自殺未遂をした男性ですが、彼は全身の90%に火傷を負い、一命は取り留めましたが現在も病院で治療を受けています。

また別の報道では、アルビルにあるイラン領事館の外交官2名が男性を撮影しようと病院を訪問し、親族や友人に制止されるという場面もあったそうです。イラクに逃れてもイラン政府の監視の目があるというクルド系イラン人が直面する実情が表された出来事にも感じます。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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