悠久のメソポタミア、イラクでの日々から
実はかなりの銃社会なクルディスタン
昨日、こんなニュースが飛び込んできました。
One dead after family feud leads to gunfire in Erbil(アルビルにて家族間の争いで銃撃。一人死亡)。
実は中東全体で見ても比較的治安のいいと言われるアルビルでも、このように銃を使った犯罪はたびたび起きます。
「名誉」を重んじる中東社会において、家族間の争いが殺人事件に発展することは残念ながら珍しいことではありません。そしてその際に銃が武器となってしまうのも、ここクルディスタンの悲しい側面の一つです。
銃撃事件は珍しくない4>
この事件の少し前も、アルビルにあるクルド自治政府電気省の建物内で職員同士の恋愛のもつれから女性が射殺されるという事件が発生。
また今年の1月にはクリスチャンが多く暮らすアルビルのアンカワ地区の病院前でも家族問題が発展した銃撃事件があり、2人が亡くなりました。
70%という驚異的な銃保有率
このように銃を使った犯罪が多いのには、クルド自治区市民の銃保有率が70%を超えていることが大きな理由となっています。
ここクルディスタンは世界的に見ても深刻な銃社会なのです。
1990年代にはクルド勢力内での内戦を経験し、その後2014年には過激派組織ISISの脅威がすぐそばまで迫っていたことから、ここアルビルでも銃保有の一定の必要性があったことは間違いありません。
ただし銃大国と呼ばれるアメリカでさえも保有率は約40%と言われており、比較するとクルディスタンの驚異的な保有率の高さが分かるかと思います。
実際に友人の家に行った際に「銃見てみるか?」と訊かれて、これを見せてくれたこともあります。
30年前くらいの銃ですが、メンテナンスもされておりしっかり撃てます。
値段もこの拳銃くらいでしたら8,000円ほどの価格でブラックマーケットで買うことができます。
いつもは子どもたちが絶対に触れないように金庫にいれているそうですが、「もし強盗なんかが来たら躊躇なく撃つ」とも彼は言っていました。
政府は規制も進めているが...
クルド自治政府もこの社会における銃の氾濫を看過している訳ではありません。
一昨年には銃の登録を義務化(逆に今までしていなかったのかとも思いましたが)、カラシニコフ銃を除いたアサルトライフルなどの中型銃から機関銃などの大型銃の私的所有を禁止する法律を施行しました。
しかしこの法律には抜け穴も多く、クルディスタン全体の半分の銃でさえ回収できないと批判に晒されています。
クルディスタンが銃社会と呼ばれないための道のりは、まだ遠そうです。
著者プロフィール
- 牧野アンドレ
イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。
個人ブログ:Co-魂ブログ
Twitter:@andre_makino