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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

フェラーリと80年代のトヨタが並走する街

1932年に撮影されたアルビル ©Library of Congress Prints and Photographs Division

私は約1年半をここアルビルで暮らしていますが、間違いなく今まで駐在した途上国の街の中でも圧倒的に快適に過ごせる街です。人が優しく、ホスピタリティに溢れ、人種差別も経験したことがありません。ただその反面、ここアルビルは世界でも貧富の格差がすごい街であるとも言えます。

もちろんそれを示す経済データがある訳ではないのですが、それを一番感じる瞬間は高級スポーツカーと80年代のふるーいトヨタが街で並走している場面を見た時などです。

とくに私は所属団体の安全規定でいわゆる富裕層が暮らす高層マンション群の中で暮らしているのですが、そのコンパウンドの中にはたくさんの高級車が止っています(個人的に一番見るのはマスタング)。

その一方で低賃金労働に従事する移民労働者や、地元の貧困層の存在も忘れてはいけません。


世界最古の都市であり、経済成長も著しいアルビル

イラクのクルド自治区最大都市のアルビルは現在人口推定90万人近い大都市ですが、紀元前5世紀にはすでに人が集住していた痕跡があり、世界で最も早く人類が文明を築いた場所であると考えられています。しかし近代史を見ると、ここはたった100年前までは城塞の周りに家が数百軒あるかないかの村でした。

しかし古代から、イラクを代表する大都市であるバグダードとモスルの間の交易地として栄え近代以後も人口を増やしてきます。

イラクで最も治安のいい街でもあり近年経済成長も著しいことから、イラクの中央政府地域や周辺国、特に隣国であるイランからのたくさんの富裕層を惹きつけています。

アルビル城塞を中心に同心円状に広がっていく街は、外にいくごとに新しい建物や高層マンション群、高級レストランが建てられていき、伝統的な中東の匂いを醸し出す中心街と対比を織りなすようなモダンな生活が見られます。

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今日のアルビル城塞 ©筆者撮影

アルビルはイラク各地、また隣国からも富裕層を惹きつける一方で、移民労働者や難民も多く暮らしています。
清掃業やごみ収集、また路上販売の仕事には多くのバングラデシュからの移民が従事しており、いわゆるドメスティックワーカーと言われる仕事にはフィリピンやネパールからの女性が多く就いています。

またレストランでは、クルド語をネイティブ言語で話しアラビア語もペラペラなクルド系シリア人が多くウェイターとして働いています。

このように富裕層が増えることでさらなる投資、そしてインフレが起きる一方で、低賃金労働も移民労働者が占めていることからアルビルではさらに貧富の格差が拡大、冒頭で述べたようなフェラーリと80年代のトヨタ車が並走する街の景色が出来上がっています。

地元のイラク国籍のクルド人は土地を持っていたり待遇のいい公務員として働いたり、移民には認められていないタクシー運転手として働くことができますが、こういう仕事から漏れてしまっている地元民も少なくないのが現状です。

「たった10年前まではすごく安く生活物資が買え、収入が少なくても生活ができたのに」

こういう言葉を地元の人たちから聞くことも少なくありません。物価上昇という経済発展の負の側面を受ける地元市民も少なからず存在しています。

フェラーリと古いトヨタ車とすれ違った瞬間、都市の成長や経済発展の功罪を考えざるを得ないのです。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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