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ラッシャー貴子|イギリス

遺品オークションで見たフレディ・マーキュリーの世界

フレディ・マーキュリーの遺品展の無料パンフレット。入場待ちで並んでいる間に配ってくれたので、並びながら2フロア、15の展示室に分かれた展示を想像することができた。会場のサザビーズは18世紀創業で世界最古のオークションハウスで、フレディも生前よく通ったらしい。付属のカフェではフレディをテーマにしたメニューが出され、最後にはトートバッグも売られて、まるで展覧会のようだった。筆者撮影

 ロンドンで開かれていたフレディ・マーキュリーの遺品オークションが、9月13日に終わった。数々のヒット曲を作ったピアノが約3億円、「ボヘミアン・ラプソディ」の歌詞の下書きが約1億3,000万円で落札されたというニュースをご覧になった方も多いと思う。

 6回に分けて行われたオークションでは、ほとんどの品が予想価格を大きく超えて競り落とされた。このピアノなど、注目の品が多かった初日だけで売り上げは約1,220万ポンド(約22億円)、オークション全体の売上げは約4,000万ポンド(約72億円)と発表されている。個人の遺品としては、くらくらする金額だ。

 この1か月ほどは、オークションの関係でニュースやSNSでフレディの名前を見聞きすることが増え、大ファンというわけではないわたしも、30年以上前に亡くなったこのスーパースターや彼の音楽を思い出す時間になった。

 英国のロックバンド、クイーンのリードボーカルだったフレディ・マーキュリーが45歳の若さで亡くなったのは、1991年のことだ。西ロンドンにあった自宅は、元恋人で、生涯の親しい友人だったメアリー・オースティンさんに遺され、彼が集めた美術品や調度品とともに、ほぼ手をつけない状態で管理されてきた。けれど今年になって、70代という自らの年齢を考えたオースティンさんは、個人的なものだけ手元に残して、遺品をすべて売りに出すことを発表した。心を決めるのは簡単ではなかった、と彼女は話している。遺品で博物館を作ってほしい、という要望も強かったものの、彼女によれば、「それはフレディの望みではなかった」。

 Freddie Mercury: A World of His Own(「フレディ・マーキュリーの世界」)と題されたオークションに先立ってサザビーズで遺品が公開され、1か月の間、誰でも見に行くことができた。しかもオークションで購入するかもしれない客として訪れるので入場は無料、予約も不要だった。

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遺品展を開催中のサザビーズの入口(撮影は閉店後)。ドアの上にはフレディを象徴する口髭が飾られていた。高額のオークションが行われるサザビーズは庶民にはちょっと敷居が高い。数年前に友人に連れて行ってもらって、誰でも入れることがわかったけれど、やはり緊張するので、こういう大きな展示は気楽でありがたい。筆者撮影

 美術品のコレクターでもあったフレディの所持品は、これまでほとんど表に出たことがなかった。それが今回、食器棚のような生活用品まで一切合切売られることになったので、この遺品展は彼の美術コレクションや暮らしぶりを一度に見ることができる最初で最後の貴重な機会になった。オークションが終われば、売られた遺品は世界中に散っていくのだ。

 遺品の本格的な整理は初めてのことで、死後30年を経て、彼のコレクションや音楽に新たな発見もあった。大ヒット曲「ボヘミアン・ラプソディ」は、初めは「モンゴリアン・ラプソディ」というタイトルだったことも歌詞の走り書きからわかった。

 前評判の高かったこの遺品展には初日から長蛇の列ができたので、それがまた話題を呼んで人を集めた。わたしも小雨の中を1時間半待ったけれど、並んでしまえば、確実に動く整然とした行列だった。ハイブランドが軒を連ねるボンド・ストリートに行列ができるというのも不思議な光景で、通りは妙に活気づいていた。

 一緒に並んでいたのは中高年層が多めではあったけれど、夏休み中の子どもを連れた家族やクイーンのTシャツを着た若者などさまざまだった。英国各地や海外からの訪問者もあったからなのか、スーツケースを持った人も見かけた。最終的に、1か月の入場者数は14万人を超えた。

サザビーズのインスタグラム投稿より、遺品展への入場待ちの列。動画で見ると、その長さがわかりやすい。サザビーズの入口から始まった行列は、最初の角を曲がり、その次も次も曲がって、建物のあるブロックをぐるっと取り囲むように続き、もう少しで1周して入口に届きそうな勢いだった。ただ雰囲気は和やかで、サザビーズの配慮も行き届いていた。

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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