トルコから贈る千夜一夜物語
「強大なトルコ」を目指すトルコは 2022 年にどう変わっていくのか
トルコリラの急激な暴落で経済が大いに悪化したトルコ。しかもこの悪化が 4 か月ほどの短期間で急速に進んだ感があるために、突然の変化に一番びっくりしているのがトルコ国民かもしれません。このトルコ国内の経済の変化については、以前の記事「トルコの名物シミットが半分に切って売られる時代 ‐ トルコリラ暴落」でも触れました。
2022 年 1 月にはトルコのインフレ率が 48.7%となり、この 20 年間で最悪であることが報告されました。オフィシャルで発表されているこの数字は、実際にはもっと悪いのではないかともいわれています。
2022 年 1 月から光熱費は歴史的な高騰を見せています。電気代はほとんどの家庭で 2 倍 (家庭によっては 3 倍やそれ以上) の値上げ。天然ガスは一般家庭では 25%、工場など産業用の場合は 50% の値上げとなりました (こちらの記事をご参照ください)。
考えてもみてください。これまでと同じように電気やガスを使っているのに、請求額が先月の 2-3 倍となるのです。1 月の請求額を見て悲鳴を上げたトルコ人も少なくないはず。これまでもカツカツの生活を送ってきた人々の場合、支払えるはずがありません。払いたくないのではなく、単純にもう払えないのです。筆者の場合ももれなく、電気代は先月の 2 倍、ガス代は 1 月に大雪だったこともあり、先月より使用量がぐっと増えてやはり 2 倍ほど。
物価もここ数か月間で大幅に高騰しています。以前ならキロ単位で大量買いをしていた野菜も、本当に必要な個数だけ袋にそっと入れるのが多くのトルコ人の現状なのかもしれません。この時期、トマトやナスなどの季節外れの野菜はもはや高級品の部類に入るのではないでしょうか。少なくとも筆者にとってはそうです。しかし心配なのが、商品が売れずに残ってしまうこと。売れ残りが増えると、食品が廃棄される結果になってかえって無駄が生じるのではないかとスーパーマーケットに行くたびにいろいろ心配してしまう昨今です。
多くのトルコ人の生活はカードローンで成り立っています。自転車操業ではありながらも、これまでは何とか収入と返金のバランスを保っていたトルコ人たちがもはや支払えないという状況に追い込まれています。イスタンブールでは、 Migros (ミグロス) という大手のスーパーマーケットの労働者たちが時給の値上げや労働条件の改善を求めてデモを行っています(こちらの記事を参照)。デモ参加者の中に逮捕者も出ているようで、少し心配な動きとなっています。
次々と打ち出される新しい政策とその内容を少し
こうした国民の声を受けて、トルコ政府はこの経済苦境の打開策をいろいろと打ち出しています。代表的なものとしては、2022 年 2 月 14 日から、基本的な食料品にかかる消費税 8% が 1% に減額されました。
Pazartesi itibarıyla temel gıda ürünlerinde KDV'yi %8'den %1'e indiriyoruz. Ülkemize, milletimize, sektörlerimize hayırlı olsun. pic.twitter.com/URcf8elMke
-- Recep Tayyip Erdoğan (@RTErdogan) February 12, 2022
それから、電気代とガス代の補助制度が拡大されました。金銭補助を受けることができる家庭の数がそれぞれ 400 万世帯へと拡大します。もちろん補助を受けるには一定の条件があります。
Elektrik desteğinde hâlen 2,1 milyon hane olan kapsamı 4 milyon haneye çıkartıyoruz.
-- Recep Tayyip Erdoğan (@RTErdogan) February 16, 2022
Ayrıca sosyal güvenlik şemsiyemizin hem kapsama alanını hem etkisini genişletecek 15 milyar liralık yeni bir sosyal destek paketiyle ilgili hazırlıklara da başlanması talimatını verdik. pic.twitter.com/YfU540oJiW
電気代に関しては、慢性疾患のために電気機器を継続的に使用せざるを得ない人たちや家庭で病人などのお世話をしている人、そして収入が限られている人などという条件が発表されています。補助金額は、世帯数によって 137 リラから 206 リラの範囲で支給されます。
ガス代の補助に関しても条件が発表されています。トルコ人であり、社会保険が適用されない職種の人、あるいは社会保険が適用されていても収入が限りなく低い人などです。ガス代の補助金は、3 月と 10 月の年 2 回支給されます。補助金の額は 450 リラから始まり、1150 リラが上限となっています。
Daha önce sözünü verdiğimiz doğal gaz tüketim desteğiyle ilgili hazırlıklar da tamamlandı.
-- Recep Tayyip Erdoğan (@RTErdogan) February 16, 2022
Sosyal yardımlaşma ve dayanışma vakıflarının kriterlerine uyan 4 milyon hane için yılda iki defada ödenmek üzere 450 ile 1.150 lira arasında değişen miktarlarda destek sağlayacağız. pic.twitter.com/nlKpFx98r1
また学生支援の一環として、国営のドミトリーで生活する学生の食事代としての月々の給付金 570 リラが 750 リラに増額されました。
GSB yurtlarında kalan 745 bin gencimize verdiğimiz beslenme yardımını aylık 570 liradan 750 liraya yükseltiyoruz.
-- Recep Tayyip Erdoğan (@RTErdogan) February 16, 2022
Böylece üniversite öğrencilerimizi yemek ücretlerinde yaşanabilecek muhtemel artışlara karşı koruma altına almış oluyoruz. Gençlerimize hayırlı olsun. pic.twitter.com/4J8k2vXCdx
この他にも、農家への支援や障がいを持つ人たちの雇用拡大などなど...挙げ始めるときりがないほどです。2023 年の選挙を控えたエルドアン大統領。この経済危機を乗り切るために、非常に意欲的に次々と新しい打開策を打ち出している様子が分かります。
「強大なトルコ」へ近づいているのか
2022 年 2 月 17 日の演説で、エルドアン大統領は次のように述べました。
vatandaşlarımızı bugünkü sıkıntıların pençesinden de Allah'ın izniyle kurtaracağız. Büyük ve güçlü Türkiye'nin inşası hedefiyle hazırladığımız programımızı adım adım uyguluyoruz. "Türkiye ekonomide tarihinin en güçlü dönemine girdi.
神のお許しにより、現在の困難の呪縛からトルコ国民を救います。強大なトルコを構築するために準備した計画を段階的に適用しています。トルコは同国のこれまでの経済史上で最強の時期に入っています。
さらに、国の経済状況に関するネガティブな報道へくぎを刺すことも忘れませんでした。
Siz sürekli felaket senaryoları yazarak milletin moralini bozmaya, umudunu zayıflatmaya, karamsarlık aşılamaya çalışanlara sakına bakmayın.悲痛なシナリオを書いて国民の士気をくじき、希望を弱め、悲観論を植え付けている人々に注意を払わないでください。
エルドアン大統領はインフレ率を今年中に一桁台に戻すことを目標としています。今後、春以降はトルコの収入の柱である観光収入がトルコ経済をぐっと押し上げていくことが期待されています。観光産業が活性化することで雇用も推進できます。この経済苦境は一時的なものなので、国民が一丸となって乗り越え、みんなで強大なトルコを作り上げていこう! というのがエルドアン大統領から国民へのメッセージです。
打開策が次々打ち出されているとはいえ、先に触れた補助を受けられる 400 万世帯に入りきらないトルコ人のほうが多いはず。大統領の演説にあったように、この経済不況が一時的なものであることを筆者も切に願っています。2022 年にトルコはどう変わっていくのか。いろいろな意味で勝負の年と言えるかもしれません。
著者プロフィール
- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
公式HP:https://picturesque-jordan.com