中東から贈る千夜一夜物語
トルコ人のがん専門医の存在なしには「ファイザーワクチン」開発はなかった! その舞台裏に迫る
トルコのワクチン接種状況について
トルコでは、BioNTech 社のワクチン (つまりファイザーワクチン) より先に中国製のワクチン「Sinovac (シノバック)」が使用されていました。私の周りでもワクチン接種者はほぼ中国製のワクチンです。中国製のワクチンはどのワクチンよりも副作用が出にくいようですが、その分、効果も低いとささやかれています。本当のところは分かりませんが...。
BioNTech 社からはこれまでに 610 万回分のワクチンがトルコに供給されており、6 月には 3 千万回分のワクチンが届くとのことです。そして 9 月までに 1 億 2 千回分が届く予定。さらにトルコには、中国製の Sinovac もさらに 5 千万回分が届く予定だということで、最終的なワクチンの数は 2 億 7 千回分に到達することが確定しています。これはトルコの総人口の 3 倍にあたる量となります (←情報先はこちら)。
在トルコ日本大使館からの情報によりますと、トルコのワクチン接種対象年齢は、6 月 1 日から 50 歳以上となります。つまり 55 歳以上のトルコ人へのワクチン接種はほぼ終了しています。さらに、観光業に携わる人たち (ドライバーやガイドなど) に対しては夏の観光シーズン前に接種が優先的に進められています。先ほどのトルコの新聞の情報によりますと、秋ごろには接種対象者は 18 歳にまで到達する予定だということです。
外国人である私にとっての関心事は、外国人へのワクチン接種状況です。在トルコ日本大使館によりますと、外国人であってもトルコの在留許可を持っている場合は、ワクチン接種が可能となるようです。私の周りの外国人で接種した人はまだいません。が、いよいよ近づいてきた感はあります。
接種を希望するワクチンの種別は、トルコ保健省が提供するシステムへの登録時に選択できるようになっているようです。ただ、必ずしも希望するワクチンの提供が保証されるものではないということです...。これはちょっと不安ですが...。
トルコ人が世界初のコロナワクチンを開発したことに対する世界の反応
一部では次回のノーベル賞受賞候補ともささやかれている Uğur Şahin 博士。この度、傑出した革新的な人物に贈られるドイツの「アクセル・シュプリンガー・アワード2021」を受賞されました。この記事の最初のほうでご紹介した Youtube チャンネルでその一部始終を見ていただくことができます。授賞式では、世界各地の要人から惜しみない賛辞が送られました。
外国人にはとかく厳しく当たりがちなドイツですが、彼の功績は大きく取り上げられています。今では、BioNTech という会社の名前はドイツ中のすべての人、子供でさえも知っていると言われています。通常、外国人排斥に傾きがちなドイツ世論ですが、「ゲストアルバイターとしてドイツに来たあなたの家族がドイツに留まってくれてよかった」などと称賛されています。これはドイツで肩身の狭い思いをすることもあるトルコ人たち (あるいは外国人全般) にとって、大きな励みになるのではないかと思います。
Uğur Şahin 博士はドイツ育ちでドイツ国籍を持つとはいえ、出身はトルコ。トルコ人はとにかく「彼のことを誇りに思っている!」というのが一般的な反応かと思います。私の矯正歯科医にも尋ねてみましたが、「もちろんトルコ人の誇りだわよ! 彼の功績が世界を救うんだから!」と熱く語ってくれました。
いっぽう、ユダヤ系のサイトはこんな辛口のコメントを寄せています。
Turks can score spectacular scientific successes--as long as they conduct their academic careers in the free world, not in a country strangled by an increasingly Islamist regime.
トルコ人でも華々しい科学上の成功を収められるようだ。ただし、イスラム化をますます推し進める政権に縛られた国ではなく、自由社会で学問の追及をした場合に限る。
イスラエルとトルコの関係はちょっと悪いので...。でも辛口ながらも、Uğur Şahin 博士の功績を認めざるを得ないというのが分かりますね。
Uğur Şahin 博士は世界で一番お金持ちのトルコ人
こちらの面のほうがよく取り上げられているかもしれません。2020 年のドイツの資産家トップ 10 に Uğur Şahin 博士が含まれています(BBC の記事)。Uğur Şahin 博士と Özlem Türeci 博士は世界で一番お金持ちのトルコ人だということです。
でも億万長者になったのに、浮かれずに落ち着いている。会社に今でも自転車で通っている。なぜそんなに落ち着いているのか? とインタビュアーが質問していました。Uğur Şahin 博士はこんな風に答えておられます。
科学が大好きだから。科学の存在は、人を浮わつかせない。
まさに研究に尽くす人生! このご夫妻は今後も車を持つ予定はないそうです。Uğur Şahin 博士曰く、車を持てば責任も増えるし、自転車が一番実用的。
このパンデミックが終わったら、何をしたいかというインタビュアーの質問には奥さんの Özlem Türeci 博士がこんな風にユーモアを交えて答えておられました。
睡眠をとりたい。そして夫婦間のケンカに備えたい(笑)。
こうしたおごらない態度は、中東では珍しいです。中東の文化はひとことで言ってしまえば、見せびらかす文化。見せびらかす手っ取り早い方法は、車を持つこと、メイドを持つこと、大きな家に住むこと...など色々ありますが、とにかくシンプル・簡素とは程遠い中東 (とはいえ、トルコ人はアラブほどひどくありません)。こうした中東の文化とは対極なご夫婦の態度には、非常に好感が持てます。
最後に少しばかり筆者の意見を...
個人的な意見ながら、私は Uğur Şahin 博士を一目見て大好きになりました! なんと優しそうな眼の人なんだろうというのが第一印象。この人は良い人に違いないと直感で感じました。こうした直感は結構当たるんですよ。実際、どのインタビューにも誠実に答えておられます。ぼくとつとした感じが何とも言えず、素敵です。
私はがんで母を亡くしていることもあり、がんの免疫治療にとても関心を持っています。母のがんと向き合ってきた自身の経験から、標準治療とされている抗がん剤治療に疑問を持っていました。ですから、オーダーメイドのがんワクチンを開発するという Uğur Şahin 博士の研究にとても共感できました。Uğur Şahin 博士はこの分野で今後目覚ましい発展がみられることを予期しておられます。ぜひそうなって欲しいと思いますし、今後のご活躍にも期待しています。
著者プロフィール
- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
公式HP:https://picturesque-jordan.com