イタリアの緑のこころ
ゴッホ展偽情報 詐欺か悪ふざけかペルージャ美術館長が嘘と告発
オランダの画家、ゴッホは、イタリアでも人気があります。ゴッホの生誕170周年である今年は、ローマなどで記念の展覧会が開催されたほか、関連の様々な催しが行われました。わたしも2月に、アッシジで催されたゴッホの人生を語る演劇、「Van Gogh Café」を鑑賞しました。
"Van Gogh Café. Commedia Musicale"
-- Naoko Ishii (@naoko_perugia) February 22, 2023
Tuffo nei dipinti dell'artista e nel suo mondo, bella anche Assisi di notte dopo il teatro
歌と踊りと共にパリのカフェを舞台にゴッホの絵と人生を伝える演劇を鑑賞。ゴッホの作品の映像の使い方も秀逸。アッシジの夜景も美しい。https://t.co/7Ql4CdGjK4 pic.twitter.com/ZZYkBDPqkb
劇場は満員で、改めてゴッホの人気を思いました。わたしたちは見られなかったのですが、4月には「ファン・ゴッホ最後の日々」というショーも、ペルージャ中心街の劇場で開催されています。
一方では、昨年から今年にかけて、ゴッホの絵画が会場にデジタル技術で映し出され、映像と音楽の中でゴッホの生涯や作品に触れるという体験型の展覧会、「ファン・ゴッホ -僕には世界がこう見える-」や「ゴッホ・アライブ」が、日本各地で開催され、ブログの友達がその展覧会を訪ねての感想を写真と共に記した記事を読んで、「ゴッホの世界の中に入り込んで感動することができるすばらしい展覧会のようだから、ぜひ行ってみたい。イタリアでも開かれないだろうか。」と調べてみました。
すると、ミラノやローマなどのイタリアの都市でも、ゴッホの絵画の映像の中に没入できる展覧会、「Van Gogh Experience」が開催されることが分かったのですが、調べていたら驚いたことに、なんと地方都市のペルージャでも、秋に没入型の展覧会、「Van Gogh Alive」が開かれるという情報をフェイスブックで見つけました。
ところが、秋になってそろそろペルージャのゴッホ展がある頃かと思い、調べてみたら、なんとこの「ペルージャでのゴッホ展」が偽情報であるということが分かって、さらに驚きました。
会場とされていたのは、ペルージャの歴史的中心街にある国立ウンブリア美術館なのですが、その館長自らが、この情報は「でっちあげ」でそんな展覧会の予定はなく、「国立ウンブリア美術館ではバーチャル展覧会は企画しません」と、自身のフェイスブックページに記していると、9月21日付のPerugia Todayなどのオンライン記事に書かれているのです。(冒頭の画像を参照のこと)
Perugia Todayの記事見出しにあるbufalaは、「雌水牛」を意味するイタリア語なのですが、「偽情報、フェイクニュース」という意味もあり、現代のマスメディアでは、よくこの意味で使われています。
一方、この存在しないウンブリア州でのゴッホ展のフェイスブック上のイベント情報ページは、削除されることもなく今も存在していて、現時点で、1万8千人以上の人が「興味あり」、1565人が「参加予定」となっています。この存在しないゴッホ展、「Van Gogh Alive 2023 - Umbria」のイベント情報ページは、最初の投稿が今年4月23日となっていますから、この偽のゴッホ展情報は、その頃にでっちあげられたものと思われます。ちなみに、この展覧会が本当にあるように見せかけようという意図からか、このゴッホ展の案内は、ペルージャでのイベントを紹介するalle events in Perugiaにも書かれています。
けれども、フェイスブックのイベント情報ページのリンク先にあるのは、本当の国立ウンブリア美術館のページで、偽情報を載せている二つのウェブページには、この実際には存在しないゴッホ展の切符購入を促すリンクは、今のところはありません。今ではでっちあげの開催予定日が1週間後に近づいているのですが、これまでは先の話だったので、まだ切符購入ページへのリンクを掲載しておらず、このゴッホ展が偽情報だというニュースが流れて、そういうリンクを載せるのを見合わせたのかもしれません。
ありもしない展覧会の切符を売りつけて儲けようという意図があったのでなければ、どうしてこういう嘘の情報を、半年も前から掲載して、今もそのまま載せているのか謎です。ただし、「でっちあげで、そんな展覧会はうちでは開催しない」と国立ウンブリア美術館の館長が言い、それがニュースとなっていても、わたしのように旅行に出かけていたなどという理由で知らずにいる人はいるでしょうし、1万8千人以上の人が興味があると言っているのですから、虚偽の開催日がさらに近づいたときに、詐欺の切符購入サイトやページへのリンクが追加されて、被害に遭う方が出ないとは限りません。
情報化社会になり、情報を手軽に発信したり得たりできる便利な世の中にはなりましたが、そのために、イタリアでも、インターネット上のこうしたフェイクニュースや詐欺が増加傾向にあるとのことです。今回のペルージャでのゴッホ展覧会の情報にしても、わたし同様に疑わずに、関心を持った人が1万8千人もいるわけで、会場とされる美術館の館長がでっちあげだと言ってニュースになったのは、この偽のイベント情報が出た5か月後のことです。
嘘か真実か見分けるのが難しい、まことしやかな偽情報や詐欺が、インターネット上にも日々の暮らしにも存在していることを改めて思い、これからはさらに気をつけなければいけないと思いました。
ウンブリア在住の皆さんや、よそにお住まいでこのゴッホ展のためにペルージャを訪ねようと考えていた皆さん、展覧会は存在しませんので、もし切符購入ページなどが今後現れたとしても、切符を購入したりなどなさらず、詐欺の被害に遭わないよう、十分にご注意ください。
著者プロフィール
- 石井直子
イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。
ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia
Twitter:@naoko_perugia