World Voice

イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

大切な日伊の架け橋 アニメと漫画

日本語と日本文化の最初の授業でイタリア人学生たちに行ったアンケートへの回答。趣味の欄に、アニメや漫画という言葉も並んでいます。

 イタリアで、イタリアの人に日本語を教えると、少年少女から社会人まで、日本のアニメや漫画が日本語学習を始めたきっかけになった、あるいは、好きなアニメが勉強の励みになると言う人が、たくさんいます。その中でも、40代から60代前半、熟年世代の男性になると、日本のアニメのロボットものが好きで、夢中になって見たと言う人が、少なくありません。ある男性は「ちょうどテレビが白黒からカラーに移り変わる時期に見たから、グレンダイザーの映像の美しさに感激して、大好きになったんだ」と言い、女性の友人の中には、幼い頃にその主人公が憧れだったと言う人もいるのですが、日本では昭和50年、1975年から『UFOロボ グレンダイザー』という題で放映されたこのアニメは、イタリアでは名がゴルドレイク(Goldrake)となり、1978年からテレビで放映されたようです。グレンダイザーの主題歌は、イタリアではメロディーも歌詞も日本語版とは異なるイタリア語の歌となっているのですが、その主題歌を今でも何も見ずにすべて歌えるという人が、男性の元生徒にも女性の友人にもいます。

 グレンダイザーやガンダムは、弟やわたしも好きだったので、ロボットアニメは、特に少年には、国境を越えて人気があったのだろうと漠然と考えていました。実際、教える学校で、好きだった日本のアニメを尋ねると、働く人も学ぶ人も男性が大半だからか、『マジンガーZ』、『鋼鉄ジーグ』など、ロボットアニメの名が返ってくることが多いのです。

 去年の12月だったか、学校の日本語の授業で、「...たいです。」という希望を表す表現や、「乗る」という動詞を学習していたときに、「...たくありません。」という否定形がきちんと言えるかどうかを確認しようと、「ロケットに乗りたいですか。」と尋ねたら、「はい、乗りたいです。」という答えが返ってきて、驚いたことがあります。

 「ロケットに乗りたいです。」と答えた生徒は、多感な少年時代に、1969年のアポロ11号の月面着陸成功があり、当時しばしば人類が月に初めて着陸する場面がテレビで報道された上に、宇宙も舞台となる日本のロボットアニメもイタリアで多数放映され、そのために、宇宙に行ってみたい、空を飛んでみたいという夢を、今もずっと持っているのだそうです。そして空を飛ぶという夢は、仕事で時々ヘリコプターに乗るという形では実現しているようです。

 一方、もう少し若い世代、高校生や大学生、若い社会人の教え子からは、日々の生活を舞台にしたアニメや漫画が好きで、それゆえに、そうしたアニメなどに出てくる食品に興味を持って、イタリアにある日本料理店で食べてみたり、自分で作ってみたりするんですよと聞くことがよくあります。中学生の頃から時々ラーメンを作る少年もいれば、まだ大学生だった頃から、お好み焼きやどら焼きを自分で作ることがあるんですよと言う若い女性もいます。こんなふうに、アニメや漫画を通して食文化をはじめとする日本の文化に興味を持つ人や、自分の将来の夢を紡いでいく人が、イタリアに少なからずいるのです。

 日本でもまた、イタリアの食文化や音楽、芸術や旅行、ファッションなどを通して、イタリアに興味を持つ人が多いと思うのですが、そんなふうに日頃から、異なる文化に興味を持ったり、知ろうとしたりすることが、日本とイタリアに限らず、世界中の人々が互いに理解・尊重し合っていける社会を実現していくために、実はとても大切な役割を担っていると、最近はこんな状況であるだけに、切に感じています。

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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