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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

「ヴォラーレ」原曲、世界を席巻したモドゥンニョの歌とその誕生秘話

故郷の美しい町で、空を飛ぶように両腕を広げるモドゥンニョの像 2020/9/17 photo: Naoko Ishii

苦労の末の名曲誕生、イタリア奇跡の経済の躍進への弾み

 日本ではジプシー・キングスが歌うカバー曲で知る人が多い歌、「ヴォラーレ」の原曲は、1958年にイタリアの歌手、ドメーニコ・モドゥンニョ(1928-1994)が、イタリアの歌の祭典、サンレモ音楽祭で歌って大賞を受賞した歌、「Nel blu dipinto di blu」で、この歌はさらに、アメリカで、そして世界で大流行し、イタリアの歌の中で、世界で最も有名でかつ最も売れた歌の一つとなりました。

 Volare oh, oh / Cantare oh, oh / Nel blu dipinto di blu / Felice di stare lassù

「飛ぶよ、オーオー / 歌うよ、オーオー / 青色をした空の中に / 空の高みにいられる幸せ」(石井訳)

 volareは、「飛ぶ」を意味するイタリア語の動詞です。

 モドゥンニョの歌は、サンレモの会場で聴衆を魅了し、イタリア国内のみならず、アメリカ、そして世界中で流行する歌となるのですが、ラ・レプッブリカ紙の記事には、「このモドゥンニョの歌が、奇跡の経済と呼ばれる高度経済発展へと飛び立とうとするイタリアに弾みをつけ、最後の一押しをしたのであり、この前と後では時代が、世が変わったのだ」とさえ書かれています。

la Repubblica.it - Nel blu di Modugno. L'Italia si mise a cantare di Gino Castaldo

 1928年1月9日に生まれたドメーニコ・モドゥンニョの生誕記念日を祝って、亡き今も皆に愛される国民的歌手の人生と、ヴォラーレ原曲が生まれたいきさつを語るテレビドラマが、イタリアでは先日再放送されました。

 ドラマではプーリアからローマに上京し、俳優や歌、ラジオの仕事などで暮らしながら名が売れずに苦労し、その焦りと苛立ちから妻とも一時別居したものの、愛する二人がやがてはよりを戻し、互いに支え合う様子が描かれていて、感動すると同時に、モドゥンニョの成功と幸せが、長い下積みの苦労や苦しい日々の末に得られたものだということを、改めて思いました。

 上のドラマの予告編では、サンレモ音楽祭で歌ったときの様子が再現されていて、『巨人の星』で皆が近所に一つしかないテレビの前に集まって野球の試合を観戦するように、大勢の人たちが一つのテレビを注目して見る場面も、かつて幼いモドゥンニョにギターの演奏を教えた父親の顔や、妻や友人の顔と共に、映し出されていて、興味深いです。

名曲誕生の裏に赤ワインとシャガールの青

 このドラマを見て、また、モドゥンニョ自身の歌手としての成功とイタリアの躍進に大きな弾みをつけた名曲が、思いもしないようなきっかけから生まれたと知って、驚きました。その誕生秘話は、先に引用したラ・レプッブリカ紙の記事にも書かれています。

 以前から、モドゥンニョに歌の作詞を頼まれていた友人のフランコ・ミッリャッチが、1957年7月のある日曜日に、待ち合わせた時間にモドゥンニョが来なかったのに腹を立てて、キアンティの赤ワインを一瓶空け、混乱した頭で、壁のシャガールの青い絵に想を得て、書き始めた詞がもととなり、その詞を一目見て秘めた可能性に気づいたモドゥンニョと協力して、翌年2月のサンレモ音楽祭に間に合うようにと、歌を完成させたというのです。

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ドメーニコ・モドゥンニョの生地、ポリニャーノ・ア・マーレ 2020/9/17 photo: Naoko Ishii

 若い頃、親の反対に遭いながらも、俳優になろうと志し、貧しかったためにいとこに「いつか返すから」と金を借りてローマに上京したモドゥンニョが、苦労の末に成功し、また妻のフランカとも別居が長く続くほどの危機を迎えながら、やがてはよりを戻し幸せになる。ドラマは、誰もが知る歌手とその名曲、その知られざる誕生秘話を語ってくれると同時に、かつてはサンレモの舞台で、今は故郷の海辺で両腕を空に向かって大きく広げるモドゥンニョのように、決して希望を失わずに、夢を見続けることの大切さと、そうすれば大空に羽ばたくことができるのだということを、皆に伝えてくれているように思います。

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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