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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

寿司とイタリア人、とっておきの外食から日常食へ

昨年オルヴィエートの日本料理店で食べた寿司とてんぷら 2020/12/11 photo: Naoko Ishii 

2000年から2009年にエスニック料理レストランが倍増、筆頭は中国料理、次いで日本料理

 わたしがイタリアで暮らし始めた2002年には、ミラノやローマのような大都市とは違って、ペルージャではしょうゆや米酢を見つけることさえ難しく、日本料理店などないようで、寿司を食べたければ自分たちで工夫して作るしかないような状況でした。それが、2006年には、隣町のホテルのレストランがイタリア人シェフの手になる日本料理の提供をはじめ、その後2010年頃には、ペルージャ外国人大学のすぐ近くにも日本料理店ができて、学生たちが口々に「とってもおいしいんですよ。先生もぜひ。」と言うので、わたしも一度夫と食べてみたものの、中国の人たちが経営すると思われる、日本の風情をうまく醸し出したつくりの店内では、料理はメニューにもよるのですが、日本の少し料理の得意な主婦が作った料理という感じで、それにしてはひどく値段が高いという印象を受けました。

 2009年8月のnewsfood.comの記事(リンクはこちら)には、イタリアでは2000年から2009年までの9年間の間に、エスニック料理のレストランが、2511店から4000店以上にとほぼ倍増し、その65パーセントが中国料理店で、次いで多いのは日本料理店だったものの、値段の高さのために、数年は増加が足踏みしているとあります。

 その後、ペルージャの郊外やウンブリアの他の町、アッシジやバスティア・ウンブラに、とびきりおいしい寿司などの日本料理を、値段は高いけれども食べられる店がいくつかできて喜んでいたのですが、採算が合わなかったのか、残念ながらどれも店がいつしか閉業になってしまっていました。

 かつてはおいしい日本料理はローマやフィレンツェにでも行かなければ、外食では食べられなかったのに、2021年の今では、ペルージャにも近隣の町にも、そしてウンブリア州の他の町にも、かつてを思うと驚くほど多くの店で、日本料理を食べることができます。先日も新年の祝いにと、オルヴィエートの日本料理店で、寿司とてんぷらを食べて祝いました。(記事はこちら

 ただし、イタリアの日本料理店は、経営者も料理人も日本人ではない場合が多く、たとえば、2015年のilfattoquotidiano.itの記事(リンクはこちら)によると、当時ミラノにあった「日本料理」の看板を掲げる店が400店あった中で、経営者か料理人が日本人である店は20店足らずであり、イタリア全国でも50店に及ばないだろうとのことでしえた。

 けれども、わたしや友人たちが好んで行く日本料理店には、経営者も料理人も日本人ではないけれども、おいしくてサービスのいい店もあります。

 数年前からはなんとペルージャのスーパーでも、寿司コーナーができて、寿司が売られるのを見かけるようになり、そういう店がどんどん増えてきました。わたしはまだ購入したことがないのですが、かなり前に、食べておいしかったと日本の友人が言うのを聞いたことがあって、興味を持ちました。

sushi スーパー年売上高1億1300万ユーロ超、外来語としてイタリア語に定着

 「今日では96%のイタリア人が喜んで寿司を食べ、28パーセントは毎日食べてもいいとさえ言っている。」

 ノルウェー水産物審議会のためにニールセン社が2019年に実施した調査の結果を、他社の記事を見て驚き、まさかそんなことがと、同社が自社サイトで調査結果を報告する記事(リンクはこちら)で、それが確かな事実だと知って驚きました。

 調査結果によると、スーパーの惣菜としての寿司の総売上高が、前年度に比べて5.4パーセント上昇して総売上高が1億1300万ユーロを超え、直近3か月間にイタリアの消費者の43パーセントが、スーパーの寿司コーナーか魚売り場、あるいは惣菜コーナーで、寿司を購入したとのことです。寿司がとりわけ買われるのは北西部ですが、北東部や中部でも購入されるようになっていて、寿司のネタの魚としては、51パーセントが鮭を好むと回答し、また、75パーセントの人が、ファーストフードに代わる食品としてうってつけだと確信しているとあります。

 記事にはまた、「寿司は今や、特別な外食から大衆が食べる日常食となっていて、それは日本料理のレストランが増えたためばかりではなく、むしろスーパーでの惣菜としての供給が拡大したためである」と書かれていて、理由はともかく、イタリアで寿司が身近な食品となったことが、うれしいです。

 寿司やてんぷらを食べる習慣や、スポーツ柔道や空手など、日本文化は、長年の交流を通じて少しずつ、けれど着実にイタリア社会に浸透し、sushiやtempura、judo、karateといった日本語からの外来語が、イタリア語にも増えつつあり、興味深いです。

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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