Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
9500万年前に恐竜たちが起こしたパニックの痕跡、世界唯一の恐竜スタンピード
「恐竜の首都」と呼ばれるクイーンズランド州内陸部の町、ウィントン。
ウィントンが「恐竜の町」として世界で一躍有名になるきっかけとなったのは、町の南西約110 kmのラーク採石場で1960年代に発見された「ダイナソー・スタンピード(恐竜スタンピード)」と呼ばれる膨大な数の恐竜の足跡だ。
その後の調査により、足跡は大小合わせて少なくとも3,300 。約9,500万年前の恐竜の大群が残したスタンピードの証拠であることがわかったという。これは、今のところ世界唯一とされる。
スタンピードとは、大型動物の群れが(興奮や恐怖のために)突然同じ方向に向かって一気に走り始めたり、群衆が同じ方向に向かって押し寄せ、殺到したりする様を指す言葉。ダイナソー・スタンピードを日本語に置き換えると、「恐竜暴走」「恐竜パニック」と言ったところだろうか。
9500万年前の恐竜スタンピード物語
なにより興味深いのが、恐竜たちの間でスタンピードが起こったとされる状況を再現した物語だ。残されていた足跡から、発見当初、専門家が導き出したストーリーを書き起こしてみよう。
9,500 万年前、この辺りは、年間降水量が1メートルを超える緑豊かな平原が広がっていた。湖や沼には、肺魚やワニ、淡水貝など、さまざまな生き物が生息し、恐竜たちにとっても格好の餌場となる楽園のような場所であった。
雨上がりのある日、2種の小さな二本足恐竜の群れが水辺に水を飲みやってきた。ニワトリほどの大きさの肉食恐竜コエルロサウルスとエミューと同じくらいの大きさの草食の鳥脚類、合わせて150頭ほどの小型恐竜たちが集まってきていた。
2種のグループは干渉しあうことなく水辺で時を過ごしていたが、水辺を囲む草むらの向こうに大きな影が近づいていることに気づいていなかった。その影は、ゆっくりと水際へと近づき、草が大きくなぎ倒された瞬間、突然、姿を現した!
その正体は、小型恐竜たちより何倍も大きな体の巨大な肉食獣脚類。
小型のティラノサウルスのようなその肉食恐竜は、小型恐竜の群れを目掛けて猛突進を開始。小型恐竜の群れは、散り散りになって泥の中を逃げ惑い、あちらこちらに足跡を残した ──
・・・というものだ。平穏に水場に集まっていた小型恐竜たちが、大型肉食恐竜に襲われ、逃げ惑う...。その様子は、さながら映画「ジュラシック・パーク」のワンシーンのようだ。
この説には、異論もあり、近年ではスタンピードではないとする意見があることも否めない。それでも、この物語を聞きながら太古の恐竜時代に思いを馳せるために、ラーク採石場の恐竜スタンピードを訪れる人々も少なくないという。
現在、この一帯は、ラーク採石場自然保護公園として保護され、世界唯一の「ダイナソー・スタンピード(恐竜スタンピード)」として、国定史跡に指定されている。
足跡から見えてくる恐竜の姿
かつては川が流れ、湖や沼に水が湛えられた緑豊かな平原であったというウィントンとその周辺地域。その後、大陸の自然環境が一変し、乾燥化が進んだことも手伝って、沼地や川底だった場所にこの地で暮らした恐竜たちの足跡が、非常に良い状態で数多く残される形となった。
その代表的なものが、この「ラーク採石場の恐竜スタンピード」であり、前回ご紹介したオーストラリアン・エイジ・オブ・ダイナソーに運ばれた「ティタノサウルスの行進」なのだ。
ラーク採石場の恐竜スタンピードへは、個人で行くこともできるが、オーストラリアン・エイジ・オブ・ダイナソーからツアーもでている。博物館ツアーと合わせて訪れてみるのもおすすめだ。
こうした足跡化石からは、恐竜の種類や群れの行動パターン、歩幅や移動速度などがわかり、恐竜たちの生態が見えてくる。どのようにして恐竜の足跡が化石になるのか?恐竜の足跡からなにがわかるか?を知ると、恐竜の足跡に出会う旅が一段と楽しくなるに違いない。〈了〉
▼Dinosaur Stampede National Monument (Lark Quarry Dinosaur Trackways) ラーク採石場の恐竜スタンピード
【オーストラリア恐竜紀行シリーズ】
オーストラリアで『恐竜』をテーマに旅する三部作! この記事と他2本もご一緒にどうぞ。
▼恐竜の足跡を追え!オーストラリア恐竜トレイルを往く
▼恐竜時代へタイムスリップ!豪最大の恐竜専門博物館 オーストラリアン・エイジ・オブ・ダイナソー
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/