Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
年越しを2回楽しめるのは特権?それとも悪夢?ゴールドコーストとツイードヘッズ住民の苦悩
大方の日本人が紅白歌合戦を観ながら年越しの瞬間を待っている最中、シドニーは日本より一足早く新年を迎える。ハーバーブリッジが架かる風光明媚なシドニー湾で行われる年越しのカウントダウン花火が壮麗なこともあってか、「世界でも一足早く年が明けたシドニーでは・・・」と、世界各地のテレビ局がこぞって中継するのも毎年の恒例だ。
本来、オーストラリア東岸と日本との時差は『+1時間』なのだが、夏の時期に年越しとなるシドニーは、日本より2時間早く新年を迎える。これは、シドニーのあるニューサウスウェールズ州がデイライトセービング(夏時間)を実施しているためだ。デイライトセービング実施期間中は、日本との時差が『+2時間』となる。
世界各地の標準時を示したタイムゾーン・マップ。協定世界時(UTC)を基準にプラス又はマイナスで表示。オーストラリアは日本時間+1時間となっている。※クリックで拡大(Wikipedia - 時間帯 (標準時) )
ところが、オーストラリア国内でも、デイライトセービング(夏時間)を実施している州としていない州があるからややこしい。
デイライトセービングを実施しているのは、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、南オーストラリア州、タスマニア州、オーストラリア首都特別地域。残る3つの州/準州(クイーンズランド州、西オーストラリア州、ノーザンテリトリー)は実施していない。(参照)
広い大陸であるオーストラリアには、もともと3つのタイムゾーンがあるため、国内でも時差が生じているのだが、デイライトセービングの有無によってさらに複雑になっているといえる。
オーストラリアは東部、中央部、西部に分かれた3つのタイムゾーンがある。例えば、東部で10時の時、中央部では9時半、西部は8時となる。(Credit:AlexLMX-iSrock)
州境の住民にとって夏時間は悪夢?
ここで一番問題となるのが、同じ東岸で隣り合うニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州だ。この2つの州の州境付近は、クイーンズランド州側のゴールドコーストとニューサウスウェールズ州側のツイードヘッズを合わせたメトロ・エリア(中心となる都市圏)の人口が約72万人と、豪国内でも比較的大きな経済圏となっている。国際線が就航しているゴールドコースト空港は、名前こそ「ゴールドコースト」だが、実際にはこの2つの街にまたがって造られているのだ。
ツイードヘッズ地区の住民のなかには、観光客が多く訪れ、経済活動がより活発なゴールドコーストへ、州境を越えて働きに行っている人も多い。
例えば、ツイードヘッズの住民が子供を地元の学校に通わせ、自らは州境を越えてクイーンズランド州側へ仕事に行くとする。この場合、学校への送り迎えはニューサウスウェールズ州時間で行うものの、就労時間はクイーンズランド州時間に縛られることになる。
ところが、夏場に片方の州だけがデイライトセービングを実施しているため、5時に仕事を終えてすぐに帰宅したはずが、州境を越えた途端に6時を過ぎていることになり、帰宅後に子供と過ごす時間が少なくなってしまうと頭を抱える人も多いという。このように、自宅からすぐそこでありながら1時間の時差が生まれてしまい、州境付近で暮らす住民にとっては、『悪夢』といえるほど厄介な問題なのだそうだ。
私自身、通常の時間が夏時間に変わる時は、いつも1時間損したような気分になるが、それが毎日起こっているのだから、さぞや忌々しいだろうと想像する。それに、友人や仕事仲間と待ち合わせの約束する場合に、「それは、ニューサウスウェールズ時間?クイーンズランド時間?」と、いちいち確認作業が必要になるのも面倒だ。
しかし、大晦日だけは、ちょっと得した気分になるという人も多い。それは、時差の関係で、ニューサウスウェールズ州側で年越しのカウントダウン・イベントを楽しんだ後、すぐにクイーンズランド州側へ移動して、もう一度、カウントダウン・イベントを楽しむことができるからだ。1年に2回新年のお祝いができるという特殊な環境は、ある意味、この2つの州の州境付近住民ならではの特権ともいえる。
Celebrate #NYE twice in a night by partying in #TweedHeads, NSW before crossing the timezone into #Coolangatta, QLD. pic.twitter.com/UD1LWhNn1x
-- Austravel (@AustravelUK) December 31, 2015
それはそれで楽しそうではあるが、夏の間ずっと2つのタイムゾーンに頭を抱えながら暮らすのも辛そうではある。日々のことを考えると、なんとも悩ましいところだ。
個人的には、たいして緯度も高くないシドニーでデイライトセービングを実施する必要があるのかと、常々疑問に思っているので、ニューサウスウェールズ州もデイライトセービングを止めてしまえば、こうした州境の人々の苦悩も解決されて、万々歳なのだけど...(笑)
ともあれ・・・今年も1年、お読みいただき、ありがとうございました。どうぞ、よいお年をお迎えください! 〈了〉
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
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