Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
オーストラリア、W杯出場決定! PK戦で仕掛けた大博打
6月14日早朝、サッカルーズこと、サッカーのオーストラリア代表が6度目のW杯出場を決めた。
オセアニアサッカー連盟(OFC)を脱退し、アジアサッカー連盟(AFC)に加盟してからは、これで5大会連続出場となるが、今回も前回大会と同じく、出場権をかけた地区および大陸間プレーオフを制さなくてはならないという苦難の道を乗り越えての出場で、喜びもひとしおだ。
ここのところ精彩に欠いていた感のあるサッカルーズだったが、この吉報を受け、豪国内は、17年前の「32年ぶりのW杯本大会出場の瞬間」を思い起こさせる歓喜の渦に包まれている。
17年前、2005年11月16日の歴史的な瞬間。それは、この国ではそれまでマイナーなスポーツだったサッカーが、一気にメジャーに昇格するきっかけになった豪スポーツ史上重要な出来事。オーストラリアにとって32年ぶりの2006年ドイツW杯出場へと導いた、大陸間プレーオフでの死のPK戦だ。この時のドイツW杯で、オーストラリアは日本をも破り、ベスト16となる快進撃をみせた。
そして、今回もペルーとの大陸間プレーオフで0 - 0 のまま延長戦に突入したが決着がつかず、PK戦となり、17年前のようにハラハラしながらキッカー1人1人を見守ることになったのだ。
この自身の命運を賭けた大舞台となるPK戦で、オーストラリアは、大博打を仕掛けてきた!
一か八かの大勝負にでたオーストラリア
延長戦終了まであと4分を切ったその時、オーストラリアは、これまで正ゴールキーパーを務めてきたチーム・キャプテンでもあるマシュー・ライアンを下げ、GK 3人の中で最も大型選手であるアンドリュー・レッドメインを投入した。ちなみに、ライアンは身長184cm、レッドメインは194cmだ。
オーストラリアのゴールキーパー交代からほどなくして0 - 0 のまま、試合は終了。予想通り、PK戦に突入することとなった。この交代は、PK戦となることを見越した措置であったとされるが、これまで試合にでていなかったレッドメインに命運を託すことに、誰もが衝撃を受け、悲観的な見方が飛び交った。
オーストラリアのサッカー・ジャーナリストのダニエル・ガーブ氏は、「ライアンに代えてレッドメインとは。なんてこった!」「安全策は、ライアンを入れておくことだ」とツイート。
Redmayne for Ryan. My goodness.
-- Daniel Garb (@DanielGarb) June 13, 2022
地元オーストラリアでの中継権を持つチャンネル10の番組司会者も、この場面について「大きなギャンブル(賭け)」と表現した。
踊るゴールキーパーで攪乱作戦?
驚いたのはそれだけではない。レッドメインは、PK戦が始まって相手チームの選手が蹴りだすまで、ゴール前で踊っているかのように、手足を広げてゆらゆらさせたり、飛んだり跳ねたりしていたのだ。(これは、キックを蹴りだす側としては気が散るのではないか?と思ってしまうが...実際のところ、蹴る人にとってはどうなのだろう?)
肝心のPK戦は、最初に蹴ったオーストラリアが1本目を相手GKに阻まれ失敗、ペルーは成功。ここで「もう万事休すか...やっぱり(GKを交代させるなんて)言わんこっちゃない」と意気消沈した人も多かったのではないだろうか。
続く2本目を両チームが成功させた後、3本目でオーストラリアは成功、ペルーが失敗したことで五分となった。4本目、5本目共に両チーム成功。これで4 - 4。
そして、勝負を託した6本目。まず、オーストラリアが成功させ、ペルーのキックが決まるか否か...誰もが固唾をのんで見守った。
結果は・・・・レッドメインが見事阻止。オーストラリアをW杯へ導くことになったのだ。
劇的なセーブで一躍ヒーローとなったレッドメインは、普段はシドニーFCの選手として地元では『レッダース』の愛称で呼ばれているが、ゴール前で踊る(傍から見ればどことなく愉快な)姿を多くの国民が知るところとなり、『グレイ・ウィッグル』と呼ばれることに...
『ウィッグル』とは、子供たちに人気のオーストラリアのバンド・グループ「The Wiggles(ザ・ウィッグルス)」のこと。レッドメインのゴール前の踊るような動きが、ザ・ウィッグルスのパフォーマンスみたいだということらしい。また、レッドメインが着ていたのがゴールキーパーのグレイ(灰色)のユニホームであったことから、『グレイ』。これは、ウィッグルスは(ゴレンジャーのように)青、赤、黄、紫といった具合に、メンバーを色で呼ぶためだ。
こうして『グレイ・ウィッグル』がW杯出場を決める立役者になったことから、本物のザ・ウィッグルスからお祝いメッセージ動画が届いたという。
From @TheWiggles to @redders_20 the Grey Wiggle, and his Socceroos teammates. #GiveIt100 #AllForTheSocceroos pic.twitter.com/hY9bnoHaxF
-- Socceroos (@Socceroos) June 14, 2022
この重大な場面での交代について、アーノルド監督は試合後、ペルーの裏をかくという単純な理由であったことを明かした。
踊るような動きは自分の緊張をほぐすためなのかもしれないが、後で思い返してみると、これも心理的な作戦のひとつだったのかもしれない。『グレイ・ウィッグル』こと、レッドメインは、1対1の勝負となる緊迫した場面に送り込まれた(相手にとっては)とんでもない伏兵だった...と今になって思う。
選手を信じ、命運を賭けた大博打に打って出たアーノルド監督、そして、批判を跳ねのけ、相手ボールをも見事跳ねのけたレッドメインGKに惜しみない拍手を送りたい。6度目のW杯出場おめでとう、サッカルーズ!〈了〉
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
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