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平野美紀|オーストラリア

環境回復の取り組みが奏功、5千羽超のペンギン大行進で世界記録更新 ~フィリップ島

フィリップ島観光の目玉となっている野生ペンギンの行進「ペンギンパレード」(Credit:Phillip Island Nature Park)

南極へと続く、美しい海に囲まれたオーストラリア南部、ビクトリア州フィリップ島。この島の南西部のサマーランド半島には、日没後、薄暗い海から小さな黒い物体が次々と姿を現す。その小さな黒い物体の正体は、リトルペンギン(フェアリーペンギン)だ。世界一小さなペンギンであるため、日本語ではコガタペンギンとも呼ばれる。

ペンギンたちは、サーフィンのように波に乗って浜辺に到着すると、水中での優雅な動きからは想像もつかないほど、ぎこちない動きでヨチヨチと浜辺を歩きだす。次から次へと海から現れ、まるで隊列を組んでいるかのように、ほぼ同じルートを辿って巣へと帰っていくのだ。この列を成す様子が「行進」しているように見えるため、「ペンギンパレード」として知られている。

オーストラリア最大のペンギン営巣地であるフィリップ島では、こうしたペンギンの群れが海から陸上の巣へと戻っていく様子を間近で見学することができる。この島の最大の見どころでもある「ペンギンパレード」は、ヨチヨチ歩きのペンギンたちが本当に可愛らしく、たとえ寒い思いをしたとしても「待った甲斐があった!」と思わずにはいわれないほどだ。

先週、その「ペンギンパレード」の隊列を成すペンギンの数が、世界記録を更新した。(参照

5,000羽を超えるペンギンの大行進

一日に現れたペンギンの数は、わずか50分足らずで、なんと5,219羽。毎日、海から戻ってくるペンギンの数をカウントしているフィリップ島自然公園の調査員ポーラ・ワシアクさんも、この多さには驚いたという。

ワシアクさんによると、実はこの日の数日前に約4,500羽を数え、記録更新となっていたところへ、その数のさらに上をいく5,000羽超えで、世界記録を更新したのだそうだ。

しかも通常は、ペンギン繁殖期がピークとなる南半球の初夏に当たる11~12月頃に多くなる傾向はあるが、今は真逆の初冬...。この時期に、これほどまでの数がみられるのは珍しいという。

ペンギンと共存するための環境回復の取り組みが実を結ぶ

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外来種の植物をひとつずつ手作業で除去しながら、本来この島に自生する在来種を植えるという、気が遠くなるような作業を繰り返して、ほぼ元通りの姿を取り戻したサマーランド半島。(Credit:Phillip Island Nature Park, Visit Victoria)

フィリップ島では、1920年代に、島内最大のペンギン営巣地となっているサマーランド半島における宅地開発が進み、ペンギンたちはその住処(すみか)を奪われてきた。そのため、1980年代半ばには約1万2千羽まで落ち込んだという。

こうした状況を懸念したビクトリア州政府は、この土地を買い戻しながら「フィリップ島自然公園」として保護区に指定し、2010年までにすべての建物を撤去。そして、自然公園のレンジャーとボランティアらが中心となって、地道な環境回復に取り組んできた結果、現在では4,000以上の巣があり、約40,000羽まで回復したそうだ。

実は、私自身、自宅近所のビーチでペンギンを救助した経験があり、8年前にはフィリップ島の環境回復ボランティアを体験、取材したことがあるのだが、その時で約3万2千羽まで回復したところだったので、あれからさらに8千羽も個体数が増えたことになる。

※この時の体験とフィリップ島の取り組みに関する詳細は、「野生動物と共存するために - ペンギンの島、フィリップ島の挑戦 -」に書いているので、興味のある人はぜひご一読を。

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ペンギンが通るルートに沿って造られたビューイング・プラットフォームから見学する。(Credit:Phillip Island Nature Park, Visit Victoria)

フィリップ島は、これまで難しいとされてきた野生動物と人間との共存をうまくマネジメントし、さらには観光資源として活用、成功を収めている島でもある。コロナ禍では、観光客が来なくても毎日行われている命の営みである「ペンギンパレード」を忘れないで欲しいと、公式YouTubeチャンネルでライブ配信も行ってきた。

この島の活動からは、人と野生動物、自然環境の維持や保全について、まだまだ学ぶところがたくさんあるようだ。〈了〉

フィリップ島 ペンギンパレード - ビクトリア州政府観光局

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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