Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
文明滅亡後の人々へ。メッセージを詰めた「ブラック・ボックス」、豪タスマニアに建設
地球滅亡、人類絶滅、世紀末・・・1970年代に大流行した「ノストラダムスの大予言」をはじめ、こうした「滅亡」の話題は、オカルト界隈では常に注目されてきたテーマのひとつだ。
しかし、「滅亡」は、本当にそう遠くない未来に迫っているのかもしれない...
将来やってくる現代文明の滅亡に備え、今の人類と地球のあらゆる記録を保存し、後世の人々へと伝えるための壮大なプロジェクトが、既に始まっている。
こうした記録を収めるための、膨大な量のデータが保存できる記録装置を内蔵した建造物をオーストラリアの最南端に位置するタスマニア島西部に建設中で、まもなく完成予定だ。(参照)
現代の「ノアの箱舟」とでも呼ぶべき、この建造物は「地球のブラック・ボックス Earth's Black Box」と名付けられ、太陽光で自家発電しながら、刻一刻と変わる人類と地球の足跡を記録し続けていくことになるという。
オーストラリアとブラック・ボックスの深い関係
「地球のブラック・ボックス」という名称は、旅客機などの航空機における飛行中のデータやコックピットの音声を記録し、万が一、事故が発生した際に原因究明に役立てることで知られる、あの「ブラック・ボックス」からとられたものだ。墜落時の衝撃や熱、水没にも耐える頑丈な造りで、故意に書き換えができないような仕組みになっている。
この「ブラック・ボックス」が、実は、オーストラリア人科学者による発明だということは、あまり知られていないかもしれない。メルボルン生まれの故デイヴィッド・ウォーレン博士が、父親を航空機事故で亡くした自らの辛い経験から、事故原因の究明に役立てば...との思いで考案したという。
そんな、「ブラック・ボックス」の名がつけられた壮大なプロジェクト「地球のブラック・ボックス」。
世界各地の候補地の中からタスマニアが選ばれたのは、気候変動で地球が壊滅的な状況になった場合を想定し、地質学的にも安定していることが第一の理由だそうだが、ウォーレン博士の母国でこのプロジェクトが稼働するというのは、なんだかとても感慨深い。しかも、ブラック・ボックス開発のきっかけとなった、父を乗せた飛行機の墜落事故が起きたのは、タスマニア島北側のバス海峡だったというから、その偶然に驚くばかりだ。
現代の「ノアの箱舟」は後世に何を残すのか
鋼でできた「地球のブラック・ボックス」は、縦4メートル×横10メートル×奥行き3メートルほどの大きさ。簡単には破壊されない堅牢な造りで、人類よりも長く存在できるよう設計されているという。
既に、2021年にスコットランドで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の会議の音声や関連データから記録し始めているというが、収集するデータは、気温や海水温度、大気中の二酸化炭素含有量をはじめとする、気候に関連するものだけでないようだ。
例えば、人類のエネルギー消費量や人口推移、軍事費、土地開発状況、種の絶滅に関するデータの他、新聞記事やSNSへの投稿など、分野を限定しないあらゆるものが含まれているというから、人類の足跡を後世へ残そうという本気度がうかがえる。
「地球のブラック・ボックス」は、今のこの一瞬もインターネット経由でデータを収集、保存している。その記録の様子は、ライブで確認することができる。
ホーキング博士の不気味な遺言
そういえば、あの天才的な宇宙物理学者の故スティーヴン・ホーキング博士が、亡くなる前年の2017年に「人類の未来」について、次のように語っていたという。
物理学者のスティーヴン・ホーキングは、近い将来に人類が恒星間に生きる種となるか、さもなければ「絶滅する」おそれがあるとの自身の見解を再び主張した。(中略)
ホーキングは以前から、気候変動や伝染病、人口増加のすべてが地球上でのわれわれの生存に大きな脅威をもたらすと予測してきた。16年11月、彼は人類が今後1,000年以内に新たな惑星を見つける必要があると述べた。そして17年5月には、彼はその予測を100年にまで短縮した。
出典:亡くなったホーキング博士が、「人類の未来」について語っていたこと WIRED日本版2018.03.14付け
ホーキング博士が「あと100年」と予測した時から、既に5年が経ち、残るはあと95年... 博士が今も生きていたら、この予測値をさらに短縮しただろうか...?
本当に人類が滅び、現代文明滅亡の日が、そう遠くない日にやってくるのかもしれない...と感じさせる不吉なことが次々と起こる昨今。その一部始終を「地球のブラック・ボックス」は淡々と記録していくのだろう。〈了〉
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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