Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
先住民の知恵に学ぶ、森の恵みのスーパーフード
森には豊かな自然の恵みがある。
何千年もの遥か昔から、オーストラリアという土地で暮らしてきた先住民たちが、薬や食料として使用してきたネイティブ(在来)の植物たち。現代になって科学的な調査が行われ、実際に効果のある有効成分や豊富な栄養素が含まれていることがわかってきている。
先住民たちが、昔から食べてきた原野で採れる自然の食材は「ブッシュフードbushfood」または「ブッシュタッカー bush tucker」と呼ばれ、なかには、ビタミンやミネラルが驚くほど豊富に含まれていることから、「スーパーフード(健康維持/増進が期待できる食品)」として注目されているものも多い。(参照)
近年ではその珍しさも手伝って、豪国内外の有名レストランのシェフたちからも熱い視線が注がれている。
「野のものを食べる」という点で、日本の「山菜食」と共通するところがあり、昔から自然の恵みを食べてきた私たち日本人にとっては馴染み深く、親近感がわいてしまうところも、筆者が個人的に注目してきた理由のひとつだ。
先住民『森の人々』が食べてきたスーパーフード
何千年も前からケアンズ周辺の熱帯雨林で暮らしてきた先住民の人々は、『森の人々』または『熱帯雨林の人々』と呼ばれ、太古の森と共存してきた。
ケアンズの西に位置するアサートン高原に、この森の恵みを大切にしてきた先住民の知恵を現代に受け継ぎ、彼らが食してきた古来からの食材の持つ力と環境のサスティナビリティ(持続可能性)について、多くの人に知ってもらいたいと願うオーナーが営む、ブッシュフードに特化した農園がある。
オーナーのピーターさんを訪ね、森のスーパーフードを育てる農園「レインフォレスト・ハート Rainforest Heart 」を案内してもらった。
世界遺産でもある『クイーンズランドの湿潤熱帯地域』の熱帯雨林に隣接する谷間にある農園では、この地で何千年も前から暮らしてきた先住民の人々が食料としてきた果実や木の実、葉などが収穫できる植物を栽培している。
この場所は、もともとヨーロッパからの入植者によって、一般的な農場として切り開かれ、当初は酪農、その後は、果樹園として利用されてきた土地だというが、現オーナー夫妻の手によって、この土地のネイティブ(在来種)の果樹などに植え替えられ、本来の姿に極力近い形へと生まれ変わっている最中だ。
ヘルス・ベネフィットが期待できる酸味の強い果実たち
森のブッシュフードは、どれも酸味が強い。
レインフォレスト・ハート農園で、メインに栽培している「デイビッドソン・プラム」は、一般的に知られたプラムによく似た鮮やかな赤紫色をしているが、香りはプラムというより、どちらかというとビートルート(ビーツ)に近い。甘味は少なく、かなり酸味の強い果実だ。
かといって、そのまま食べることもできないわけではなく、むしろ、いくつか食べ進むうちにその酸味の虜になってしまう人もいそうな味かもしれない。酸っぱいものが好きな人なら、問題なくそのまま食べられるのではないだろうか...
とはいえ、一般的には、もう少し甘味があるものを期待してしまう。ジャムになどにするのがベストだというが、この鮮やかな色と爽やかな酸味は、デザートや付け合わせのソースをはじめ、さまざまな料理に使えそうだ。
ワリガルグリーンとデイビッドソンプラムというオーストラリアの在来植物を使ったホタテ貝のレシピ。
-- Miki Hirano (@mikihirano) July 7, 2021
Scallops with Warrigal greens and Davidson plum butterhttps://t.co/USVJrU9fQV
デイビッドソン・プラムは、色のきれいさや食べやすさなど、使い道の広さから、既にスーパーフードとして認知されてきているため、国内外でさまざまな食品やサプリメントなどが販売されている。
デイビッドソン・プラムとは対照的な白い実の「レモン・アスペン」もまた、強烈な酸味を持つ果実だ。実を割ると、どこかグレープフルーツのような香りが漂う。少し齧ってみると、これもまたグレープフルーツのようなほろ苦さと酸味を感じるが、グレープフルーツのそれより、インパクトが強い。
デイビッドソン・プラムに比べるとまだ認知度は低いが、私たちが普段食べ慣れているものを想像しやすいので、こちらも使い道のある食材になりそうだ。
こちらは、レモンアスペンというオーストラリアの在来植物の果実をレモンカードのようにしたものを使ったタルト。
-- Miki Hirano (@mikihirano) July 7, 2021
Lemon aspen curd tartletshttps://t.co/GyqRpGypPd
この2種のネイティブ果実はどちらも、亜鉛やビタミンEなどが含まれ、抗酸化作用などのヘルス・ベネフィットが期待できる食品として注目されているという。(参照)
また、レモン・アスペンは、まさにレインフォレスト・ハート農園がある「クイーンズランドの湿潤熱帯地域」の熱帯雨林に自生する植物で、デイビッドソン・プラムと共に、『恐竜の生き残り』とも言われる絶滅危惧種「カソワリー」の好物の餌でもある。これらは、森に暮らす貴重な生き物たちの生息域守る上でも、欠かせない植物になっているのだ。
世界の注目が高まるオーストラリアならではの植物系ブッシュフード
オーストラリアには、他にも、お茶やスパイスなどの食品や精油として、既に世界で認知されている植物系ブッシュフードがたくさんある。
例えば、爽やかな柑橘系の香りの葉で知られる「レモン・マートル」、スパイスのアニスによく似た香りを持つ葉の「アニス・マートル」などは、アロマテラピーの世界では以前から人気だが、近年はお菓子のフレーバーとしても人気が高まっている。
アサートン高原には、こうした地元で採取されたネイティブの植物で香りづけしたジンを生産する蒸留所「マウント・アンクル・ディスティラリー Mt Uncle Distillery」もあり、一味違うクラフト系蒸留酒を求める人たちに人気だ。
ここの「Botanic Australis(オーストラリアの植物)」シリーズのひとつは、毎年、ロンドンで開かれる IWSC ワイン&スピリッツ・コンペティションで、2021年度のジン・オブ・ザ・イヤーを受賞し、金メダルを獲得。国別の最優秀賞を受賞するなど、豪国内外から注目が集まっている。(参照)
レインフォレスト・ハート農園では、この他にもネイティブのペッパー(胡椒)やミント、スピナッチ(ほうれん草)など、オーストラリアという大陸に太古の昔から自生し、ブッシュフードとして先住民の人々が食べてきた植物を栽培し、オリジナル商品の開発にも力を入れているところだという。
オーストラリア大陸ならではの植物は、それらに依存する生態系の維持といった観点からも重要であるのはもちろん、食材として、また、安全なコスメ(化粧品)の原料などとしても、多くの可能性を秘めているようだ。〈了〉
【関連リンク】
▼オーストラリアのネイティブ・フード ~先住民の食文化からグルメ食材へと進化し、機能性食品素材としての可能性も秘める、オーストラリアならではの食品:オーストラリア貿易投資促進庁
Special thanks to:Tourism Tropical North Queensland, Tourism and Event Queensland, Rainforest Heart, Mt Uncle Distillery
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/