Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
歴史的瞬間をとらえた!はやぶさ2、南十字星と束の間のランデブー
「はやぶさ2」が、帰って来た!
「はやぶさ2」は、小惑星「リュウグウ」で採取した岩石や砂を入れたカプセルを地球へ持ち帰るため、オーストラリアの砂漠地帯ウーメラ目指して飛行を続け、5日の午後、カプセル分離に成功。
2020年12月6日、オーストラリア現地時間の午前3:58頃(日本時間2:28頃)、予定通りにウーメラの北側に位置するクーバー・ペディ上空にその姿を現した。
火球となり、まるで流星のように長い尾を引きながらウーメラ目指して流れていく「はやぶさ2のカプセル」を夜遅い時間にもかかわらず、ドキドキしながら見守った人も多かったことと思う。
夏の砂漠に堕ちていく、星になったはやぶさ2の分身――
無事、地球に届けられたリュウグウの"玉手箱"
JAXAの津田・
筆者もJAXAライブ中継で見ていたが、その後、流れた日本のニュースでは、はっきりとクリアな映像で、「はやぶさ2のカプセル」が天の川を通過していく様子が見てとれた。
それは、「南十字星」の真横を通過する「はやぶさ2のカプセル」が見事にとらえられ、この2つがまるで束の間の逢瀬を遂げたかのような美しい映像...
なんと、その映像は"うちのカメラマン"が撮影したものだった!!
あの映像を撮影するために、ウーメラ、そしてクーバー・ペディへと足を運んだカメラマンの取材裏話をここでちょっとだけご紹介したいと思う。
悩みに悩んだ機材選び
「はやぶさ2」の地球帰還を取材するための機材選びは、結構大変だった。カメラをやっている人なら頷いていただけると思うが、撮るものによって異なる機材選びはかなり重要。
星景撮影は、慣れているほうなので、星空を撮る感じでいいとは思うが、実際は星ではないわけで、どのくらいの明るさ及び速度で移動するかも想像がつかず、また、請け負った仕事はテレビ局の映像なので、スチル写真ではなく動画でなくてはならない。撮影のハイライトは、飛行してくるカプセルの火球を撮ることだとしても、それ以外にインタビューや会見などもあるから、用途が異なるカメラが必要になりそうだ...ということで、結構頭を悩ませていた。
本来なら必要と思われる機材をすべて持っていければいいのだが、シドニーからアデレードへの飛行機移動もあり、また、アデレード空港から車で5時間以上、ときには40℃近くになることもある気象条件の中を運転していかなければならないため、機材を絞らなければいけない。
細かいことは省略するが、結局、3台のカメラと2台の三脚+スタンド、その他諸々の小道具をもって出かけたが、空港の重量制限でひっかかり、カメラ1台は剥きだしのまま、肩にかけて機内に持ち込むしかなかったそうだ。
予期せぬトラブルと突然の大雨
アデレード空港に到着し、そこからレンタカーでウーメラまで移動するのだが、この約5時間の道のりは、かなり過酷だ。
というのもアデレードを出てから次の大きめの町ポート・オーガスタまでは300km強、そこからウーメラまでのスチュアート・ハイウェイの約180kmも含め、ロード・トレインと呼ばれる荷台を何車両もつなげて走る大型トラックが我が物顔で爆走していることがあり、危険がつきまとう。一応、舗装路とはいえ、路面はあまりいい状態ではないので、気が抜けない運転になる。
案の定、今回も爆走するロード・トレインが巻き上げる砂や小石が飛んできて、フロントガラスを直撃!小さなヒビが入ってしまったそうだ。
4日はウーメラで町の様子やオペレーションルームなどを取材・撮影し、カプセルが大気圏突入する6日未明に間に合うように、5日に撮影地クーバー・ペディへ向かったそうだが、この時、車を見てみると、ガラスのヒビが大きくなっていたらしい。仕方なく、持っていた養生テープを絆創膏のように貼って出かけたという。
しかし、走り出して間もなく、大雨が・・・!
仮止めテープを心配しながら車を走らせていると、今度はロード・トレインが追い抜きざまに巻き上げる水しぶきが猛烈な勢いで降りかかり、ワイパーが効かず、前が見えない状態になったりして、かなりヒヤヒヤしたそうだ。
そんな思いをしながらも、クーバー・ペディに到着した頃には、雨もすっかり上がり、快晴に。さすが取材で雨に降られたことのない"晴れ男"(笑)
クーバー・ペディで準備万端?
クーバー・ペディ到着後は、レポーターの方と一緒にどこで撮影するかロケハンをし、火球を見た後に見学者にインタビューするため、日本大使館の人たちが見学するという場所に近い場所に決定。
最後の問題は、カメラを定点(固定)にするか、移動する様子を追うか、ということ。なにせ、ターゲットはわずか1分弱の一発勝負!
カメラマンは、JAXAのアプリ「Reentry AR」を使って方角や細かい角度を計測。南十字星の横を通過する地点に狙いを定め、1台は固定。もう1台はレポーターが見学者の様子をとらえながら音声メインで、残りの1台は火球を肉眼で見ている感じで追う。というスタイルに決めたそうだ。
一旦、ホテルに戻って仮眠をとり、早めに昼間に決めた撮影場所へ移動して、スタンバイ。
予感的中!
はやぶさ2のカプセルは、美しい尾を描きながら、南十字星の真横を通過。しかも、想像していたよりもゆっくり気味に... こうして、見事、あの素晴らしい映像を収めることができた・・というわけだ。
見事な「はやぶさ2と南十字星のランデブー」。しっかりと映像に刻めて、本当によかった!歴史的な瞬間に立ち会うことができ、微力ながら"人類の夢が詰まった一大プロジェクト"の一部を日本の皆さんに伝える一翼を担えたことに感謝したい。
そして、はやぶさ2プロジェクト・チームの皆さん、お疲れさまでした!"玉手箱"が日本に無事届きますように。
※ちなみに、これを撮影した"うちのカメラマン"は、フリーランス...というか、うちの会社の者です...(苦笑)
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
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