サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国より
オリンピックに嫌悪感を持つブラジル人
◼︎オリンピックに余り良いイメージのないブラジル人
2020年に開催予定だった『東京オリンピック』
その4年前の2016年のオリンピックは、ここブラジル・リオ市(リオ・デ・ジャネイロ州)で開催された。
『リオデジャネイロオリンピック2016』である
その2年前の2014年には、サッカー界が誇るスポーツ世界最大の大会、『ブラジルワールドカップ』も開催されていた。
ブラジルは短期間の間に、世界中から人々が集まるイベントを2回も行い、開催を成功させたのである。
これはブラジルスポーツ界にとっては誇るべき事であった。
そこには大きなプロジェクトが組まれ、国民もこれらのイベントを契機に、ブラジルが世界有数の大国になる事を期待していた。
オリンピックには開催前、開催中、開催後とそれぞれ色々な役割がある。
期待やワクワク感、これから始まる祭典を、関係者や国民がまるで学校の文化祭を作っているかの様に、今か今かと待つ開催前の期間。
次に非現実的な時間となる開催中の期間。
1試合、1試合、試合結果によって無数のストーリーが生まれ、観客は歓喜しそこに酔いしれる。
そして、大会の余韻に浸りながらも、現実に戻った後の日常生活の中で、オリンピック開催による開催地、関係者への恩恵を如実に感じる事になる開催後の期間。
特に開催後については、開催中の様な一過性のモノではなく、その後何年、何十年と影響を感じる事になる。
『リオデジャネイロオリンピック』でいえば、デング熱やボート会場の水質問題、インフラ整備の遅れなどすったもんだがあり、史上初めてオリンピックが開催に間に合わないのではとも揶揄されたが、何とか開催には漕ぎつけた。
期間中は国中を挙げてのお祭りであった。
ニューヒーローも次々と生まれた。
代表的な選手として、女子柔道のハファエラ・シウバ選手の名前を挙げるブラジル人も多いだろう。
リオのファベーラ(貧民街)で生まれ育ちではあるが、NGOが運営する柔道の道場に入門。
そこでめきめきと頭角を現し、遂に母国開催のオリンピックで金メダルを獲得。経済的に恵まれない家庭環境出身者という事もあり、まさにシンデレラガールとなり、同じ境遇の子供達や若者に夢と希望を与えた。
『リオデジャネイロオリンピック』を語る上で外せないのが、パラリンピックの大成功であろう。
オリンピックの高額なチケットを購入できない層が、オリンピックよりも割安なチケットで入手可能なパラリンピックに多く流れた。お祭り好き、盛り上げ上手なブラジル人気質と重なり、スタンドは常に満員で応援歌が歌われ、史上最高の盛り上がりを見せたパラリンピックと称された。
こうして迎えた祭典の終焉。
誰もが成功の余韻に浸り、今後のブラジルの未来は明るいと感じていた。
だが、残念ながらオリンピック前に発表されていた各施設や団体のレガシープランは、殆ど形になって残す事が出来なかった。
各施設を民間事業者が買い取って運営する事になったが、購入後、経営破綻で殆どの企業が倒産。
施設自体は再び売りに出される事になったのが、手を挙げる企業がなかった。
そうした中、市や州、国も施設を買い上げる予算がなく、運営費もままならないまま放置されたままの施設、団体が無数に出てしまった。
経営悪化により倒産の原因を、オリンピックの開催による経済悪化と発表した企業が多くいた。
冷静に経済状況を分析すれば、既にオリンピック前に悪化しているのだが、同じように考える人がブラジルに多くいるのは事実である。
それに加え、リオ・オリンピックの招致に大きく貢献し、大会組織委員会会長を務めたカルロス・ヌズマン氏が、2017 年10月、大会招致に際して国際オリンピック委員会理事の買収に関与した容疑でブラジル連邦警察に逮捕された。
実は、ブラジルサッカー協会会長であり、2014年サッカーW杯ブラジル大会の組織委員会会長を兼務したジョゼ・マリア・マリン氏も2015年5月、収賄とマネーロンダリングの容疑でアメリカ連邦捜査局によって逮捕されている。
これらが重なり、ブラジル人にとって大きなイベントの後ろにある政治家や要職を務める人物とお金に対しての嫌悪感がある。
その為、今回のこの世界中がパンデミックとなっている状況での日本の開催固辞の裏には、既得権益があるのだと考えるブラジル人が多いのも事実である。
大成功から一転して、レガシー未達成、経済状況の悪化、関係者の汚職、賄賂...。
オリンピックという大会をブラジル人が毛嫌いする原因をお判り頂けるだろう。
著者プロフィール
- 古庄亨
ブラジル・サンパウロ在住。日本・ブラジル・タイの3ヶ国で、2010年までフットサル選手としてプレー。2011年より5年間、都内スポーツマネージメント会社勤務。2016年ブラジルに渡り翌年現地にて起業。サッカーを中心にスポーツ・教育関連事業で活動中。
Webサイト: アレグリアスポーツアカデミー・サンパウロ
Twitter: @toru_furusho