NYで生きる!ワーキングマザーの視点
東日本大震災から10年後を描いた中編映画「最後の乗客」が欧米の映画祭で数々の受賞!堀江監督にインタビュー
日本からニューヨークへ渡る前の岩田華怜さんに取材をした後、彼女が主演をつとめた映画「最後の乗客」の監督、ニューヨーク在住の堀江貴氏にも取材するチャンスを得た。どのようにして堀江監督が同映画を制作することとなったのかを伺った。
唐突ですが、映画監督は、どのくらいやっていらっしゃるのですか?
「大学のときから映画をつくったり映像をつくっていました。」
大学はどちらへ行かれたのですか?
「大学は、USC(南カリフォルニア大学・・・映画学では全米第一位というからスゴイ!)です。日本で高校を卒業し、アメリカへ移住してからは、まずはハワイで語学留学からはじめました。」
卒業後のお仕事は?
「大学卒業後は、ビザの関係で就職が厳しくて、ロスで学校の仲間達と映像の会社を立ち上げました。しばらくロスでミュージックビデオやコーディネーターなどの仕事をした後、ハワイへ移り観光ビデオやウェディングビデオをつくる仕事をしていたんです。
そんな中、911があって。。。飛行機が飛ばないこともあって、ハワイにある会社がどんどんつぶれていったんです。実際に飛行機が飛ばないという状況になってわかったのですが、1ケ月も仕事がないとつぶれていく会社は、自転車操業のようにやっていたのでしょうね。取引先だったウェディング会社が夜逃げしたというパターンもありました。
ハワイは、思えば産業がかたよっているんです。ウェディングと観光と米軍しかないですから。映像に関して、撮影の仕事も演者も、米国の本土から来たり、日本から来たりというというケースばかりで、ハワイの人を使って撮影をするという仕事は、ほぼありませんでした。」
ハワイのメジャーな演者さん相手で、どういうお仕事をされていたのですか?
「ジェイク・シマブクロさんのビデオをつくったことがあります。」
ジェイクさん、日本ではもちろんアメリカでも有名ですよね。
「はい、ジェイクさんは素晴らしいアーティストです。しかし911の後、観光やウェディングだけでなく、もっと別のジャンルや表現のできるオプションがある場所へ移るほうがいいのかなと、LAかNYへの移住で悩みました。そしてLAには8年住んでいたので、これまで住んだことのないNYにって決めました。」
NYに来て、実際のところ映画や撮影のお仕事はいかがでしたか?
「NYではいろいろな仕事があるので面白いです。自分で撮影、編集まで全部やっています。完パケ(撮影から編集までを請け負う)までやるのが普通です。撮影だけしたこともありますが、自分は時系列に関係なく片っ端から撮りまくるので、編集に入った段階で、エディターさんから『わかりづらくて難しい。』って言われたことがあり、それ以来あまり撮影だけという仕事はしていません。
それから、編集の仕事だけまわってきたこともありますが、結果で判断されてしまう世界なので、マイナスできてるものをプラスにするのだけで大変ということもあり、編集だけのお仕事は基本的にお断りしています。
マイナスという意味は、たとえば、お寿司屋さんだと、鮮度の悪い魚でいくら頑張って握っても、素材の良いお寿司に勝つのは難しいですよね。それと同じで(自分にとって)編集は料理みたいなところがあるので、素材の良いもの(自分の好みではない)が撮れていないと、自信をもった作品に仕上げるのが大変、という意味です。」
©Takashi Horie 映画「最後の乗客」より
岩田華怜さんを映画「最後の乗客」の主演女優さんとして選ばれた経緯を教えてください。
「2019年にオーディションを行う際、宮城県のモデルエージェンシーさんにご協力いただいて、人集めしてもらっていたのですが。今回はキャスティングをオール宮城県出身のメンバーで世界へ向けてチャレンジしたいって思っていました。ちなみにカメラマンも、宮城県出身です。
オーディションの際、一人、脚本どおりにいいものもって来るなぁ~という、いい子がいました。その後に、その子が所属するプロダクションの社長(女性)がお茶でも飲みにと、事務所個室でお話をしました。
そのオフィスにいくと、宝塚みたいな衣装をまとった華怜さんの写真がありました。『娘なんですよ。』って紹介されました。すでにいい子みつかってるし、ごり押しされるのは・・・ってちょっとばかり思ってました。
もちろん、先方からごりおしはしてこなかったのですが、『ホリプロに所属されていて、AKBでアイドルをやっていて。』と言われ。アイドルを使うということは範疇に入っていなかったこともあり、華怜さんをキャスティングするつもりはありませんでした。が、そこで華怜さんが男装をしてダンスをしているビデオを見せていただきました。
『最後の乗客』の主人公は、反抗期にあるような女の子のストーリーで、そのビデオの中の華怜さんは、エッジがあって、この子も面白いかなーって思ったんです。」
ってことは、思わぬうちに、監督のツボにはまってしまったということですね?
「『娘さんもエッジがあって面白そうですね。』ってお話をしたところ、『実は、娘に映画の脚本を送っていて、娘もやりたいっていってます。』って。
仙台でキャストは、こじんまりとやるつもりでしたし、ホリプロのハードルは高いって思いました。が、実際にみてみないとわからないから、日本の俳優さんの演技を実際にみてみようって、華怜さんと会うことにしました。
華怜さんはとても忙しくてスケジュールがあわず、僕がNYへ発つのが午後の便だったのですが、午前中にあいてるって言われて、ホリプロへ、スーツケース2つもって、渋谷の道玄坂の事務所へいきました。
とても広い応接間みたいなところで、脚本を僕が読んで、岩田さんが演技するってことだったのですが、自分が読んでると、演技をみることに集中できなくて。。。マネージャーの男性に、『すみませんが、読んでもらえますか?』ってお願いして読んでいただいて。
華怜さんの演技はスゴイ!ってレベルで、ご自身でですでに準備をされていたのか、演技とかもバーンって返ってきました。
宮城の人もよかったけど、ワンレベル上をいっていたんです。光っていた!これはやっぱり凄いって。俳優陣にいたら最強って思ってしまったんです。」
©Takashi Horie 映画「最後の乗客」より (主演の岩田華怜さん)
結果として様々なアメリカの映画祭で受賞されておられますが。
「ストーリーと映像さえよければ通用するかと思ったのですが、甘い世界ではなかったです。インディーというと、アメリカの区切りでは、だいたいミリオン(製作費1億ドル)以下はインディーという区切りのようです。
この作品は製作費が少なくインディーでもローバジェット(低予算)どころかノーバジェット(予算なし)部門なので、それでも、そういう映画とたたかって、賞をもらえるだけで、ありがたいなぁ~って思います。」
おにぎりは、やはり広告効果ありますよね。映像の後に、映画に出てきたおにぎりを実食できるのは、アメリカ人にとっても好評なのでは?
「映画をみると、食べてみたいってアメリカ人は思うようで好評です。ボランティアの方におにぎりづくりをお願いすることもありますが、会場によっては炊飯器2つ持ち込んで、前日入りして、僕一人でおにぎりを作ることもあります。
もともとこの映画をつくろうと思ったのは、震災の後に、宮城県人会で被災地のボランティア活動していたこともあって。
震災のファンドレイジングのイベントをやっていたのですが、長年やってると人も次第に来なくなります。ほかにも被災地が増えてきたりして、『ほかにも災害の地域があるのに、いつまで宮城ってやってるの?』という風当たりもつよいし、違和感があって。」
それでも風化させるのが嫌だったということですか?
「今後、自分がファンドレイジングのイベントという形ではなく、震災を振り返ってもらうため継続できるのは?って思ったとき、映像しかないって思いました。
そこで、単に映像じゃなく、お米や海苔というのが宮城の名産なので、それに絡んだ映画として、おにぎりを中心につくりました。
映画を上映すれば観客がおにぎりを食べたくなるという、お米と海苔をPRをできるといいなと。映画だけで終わるのはつまらなくて、映画をとびこえて、3Dではないけど実現し、梅や鮭という普遍的で食べたことのある『おにぎり』でなく、あえて珍しい『卵おにぎり』にしてみました。
映画をとびこえて、実際に体験してもらうことで、現実社会に影響を及ぼすということをやりたかったこともあります。」
今後の夢はありますか?
「外国映画やアジア映画部門にカテゴリーされない、アメリカ映画として勝負できる映画を作りたいです。」
【プロフィール】
堀江貴(ほりえたかし)
映画監督。南カリフォルニア大学映画学科卒。2016 年、大江千里ミュージックビデオ「Tiny Snow」でニューヨークジャズフィルムフェスティバルで最優秀ミュージックビデオ賞とジャズゴールデンタイム賞をダブル受賞。2017年、自主制作短編映画「Ordinary Days」を発表。The Artemis Women in Action Film FestivalとNew Hope Film Festivalの短編ナレイティブ部門で選出され上映。2023年、東日本大震災から10年後をテーマにした中編映画「最後の乗客」を発表。ニューヨークで近年注目を集めるバウウェリー映画祭での最優秀賞を受賞したほか、全米各地の映画祭で上映され多数受賞。その他、ヨーロッパ(フランス、イタリア、スペイン、スウェーデン)の映画祭でも選出され、複数受賞。
【関連リンク】
映画監督・撮影監督 堀江貴公式サイト
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com