NYで生きる!ワーキングマザーの視点
AKB48や乃木坂46他、旬なアーティストやTVCMにダンスを提供する会社を起業~ Fumiko
AKB48や乃木坂46はアメリカに30年近く住んでいてもさすがに知っている日本のアイドルなのだけど、そんな有名人にダンスを提供しているというので、業界なノリの方なのだろうと勝手に思い込んでいた。が、初対面のときにあまりに謙虚な態度だったので、かなり面食らった。取材を始めてからも、ソフトバンクや孫正義さんに関して、私が知っているのかどうかをジワジワと確認しながら話を進めていくところなど、おそらく彼女はプレゼン・マスターなのだと納得。
「音楽アーティストのための振り付けや、テレビCMやミュージックビデオなどでタレントさんたちが踊るための振り付けを作ったりダンサーをブッキングしたりする会社を共同経営していて、私はニューヨークに住んでいますがリモートで、クライアントさんとの連絡やスケジューリング、ブッキング、マーケティング等を担当しています」
キャリアをスタートしたのはソフトバンクでハイテク業界だったというから、根っからのビジネスウーマン。だからエンタメ業界にいながら、謙虚さがにじみ出てしまうのだと、キャラに納得させられた。
「今はAKB48系列のお仕事も一部として、全体的にはアーティストのミュージックビデオや、テレビコマーシャルの振り付け提供を担当することが多いです。
大学卒業後ソフトバンクで10年以上勤務して、最初は携帯に表示させる絵文字の企画とかをやっていました。2013年くらいに水面下のプロジェクトが始まって、それはPepper ※1(対話型ロボット)を開発する仕事だったのですが、その初期メンバーに加えられました。
社内でさえ秘密に進んでいた業務だったため、シークレット・ルームに隔離されました。ロボット開発に関しては発表まで、親兄弟にもぜったいに言ってはならないって環境です。孫さんと直接、会議をすることもあったので、とても恵まれた環境でしたね。ソフトバンクの中でも面白い業務でした。
一方、プライベートでは、趣味でダンスをやっていたんです。ヒップホップやR&Bの音楽が好きで、新宿や渋谷・六本木のクラブでDJをやっていたこともあって。ダンサーさんたちと出会う機会が多かったからか、ダンサーの友達がたくさんできました。
ダンスだけで食べてる人も多かったのですが。ダンサーさんって、長い間、努力して毎日たくさん練習して、やっとプロとして生きていけるくらいのスキルを手に入れられるというくらい努力しているのに、プロになってもギャラはピンキリだったり、表舞台に出る場面もかぎられていたりします。
日本のダンサーさんは、ダンスのインストラクターをやったり、オーディションを受けて狭き門をくぐってミュージックビデオやライブ、テレビに出たりしているという状況です。常々、ダンサーさんたちのこんな鍛錬された素晴らしい能力をもっともっと活かせる場所があるはずだとポテンシャルを感じていました。
そんな中、ダンサーの友人から、振付師になりたいけど何から始めていいのかわからないという相談を受け、自分のバックグラウンドからダンサーさんたちのマーケティングやお仕事のサポートをクライアント観点でできるのではないかって思いました。
私のソフトバンクでのロボットやアプリを開発する仕事というのは、必要に応じて、マーケティングツールを広告代理店に発注したり、アプリ開発をディベロッパーを抱えてるベンダーに発注して開発を進めていくという仕事だったからです。」
まったくつながらないと思っていたハイテク産業から、ようやくエンタメ業界への架け橋が見えてきた感じ。
「クライアントの要望で振付師を発注する場合、どんな振付師・ダンサーだったら発注したくなるかというのが、頭の中で具体的に浮かんできました。
ビジネスの業界でも、一緒に働きたい相手(ベンダー)というのは、単にコストだけでなく、人柄や、仕事の進め方、その人のもつエナジー等で選びます。振り付けの世界にもそれは通じるって思っていて。
クライアントから発注を受ける際に、ダンサーをベンダーと見立てて、求められる条件を満たせばクライアントから需要の高い存在になりえると感じました。ここからが、ダンサーとして働いてる人たちを振付師にするというプロジェクトの始動でした。
加えて、ダンサーさんは、パソコンも使ったことがない人もいるというのが当時の実情で。自分なら情報を整理して資料を作って、クライアントさんにどういう風にプレゼンして、なぜそのダンサーや振付師を使うべきか説得することができるって思って。
ソフトバンクでは、ユーザー・エクスペリエンス・デザイン(UXデザイン)。ユーザーが潜在的に持ってるニーズを具現化していくという仕事もしていました。
たとえばですが、一枚板のドアノブのついてない押して開けるタイプのドアがあったとして、押すべき部分に"Push"と書かれた金属パネルを取り付けて、どこを押せばよいか利用者にわかりやすく明示したり、つるつるしたグラスの中腹に窪みをつけて持ちやすくしたり、というのも一般的なUXデザインの一部です。
何を具体的にやるべきなのかが不明瞭なところへ、潜在的に求められているニーズを利用者から引き出し共感して理解して、具体的に製品へ投影していきます。
振付師の仕事もクライアントが何を求めているのかを具体化していけば、クライアントから使いたいと思ってもらえ、仕事のチャンスが出てくるのではないかという道筋が自分の中で明確でした。UXデザインのノウハウを使って、振付師やダンサーのビジネスインフラをデザインしていくイメージです。
そんな中、運よく2017年ソフトバンクが全社員に対して、副業をOKにしたんです。会社へ申請をして、副業の許可をもらってから、ダンサーの友人らと3人で会社を立ち上げました」
そもそも与えられた仕事が向いていたのかもしれないが、どんな仕事でも楽しんでやれる人というのは、パラレルに別の世界でもその実力を生かせるものなのだ。さて、いったいどうやってダンサーさんたちにビジネスのアドバイスを展開していったのだろうか?
「はじめはまったくゼロからのスタートだったので、私たちはこういう振り付けができますというクリエイティブサンプル(宣伝素材)のビデオのようなものを作りまくりました。
次は、ブランディングですね。クライアントに向けて、振り付けをするのがプロの振付師だということを明確にするため、ウェブサイトや、ロゴなどを作って、ブランドイメージを固めていきました。
そこからはマーケティング戦略で、クライアントに何が必要なのかを探っていったり、認知度をあげていくことに注力して進めていきました。
そのうち、ぽつぽつ仕事がもらえるようになって、結果的に今は年間100本近くの振り付けを提供しています。振り付けだけでなく、ダンス出演の仕事がある場合、必要に応じて多いときには、100人のダンサーを集めてブッキングするということもあります。」
いよいよ秋元康さん率いるアイドルにたどり着いた謎?
「ある時、クライアントだったレコード会社さんから、SKE48(名古屋のアイドル)の振付師をコンペで決めるので、もしよかったらトライしてみませんか?というお話をいただきました。
他にも候補がいましたが、ありがたくも決まったんです。その振り付けを、秋元さんがみて、気に入ってくださって、AKB48の振り付けも発注があって。そこからは、AKB系列の地方アイドルの振り付けも担当しましたし、
秋元さんの劇団や、新しいアーティストの方達が、メインのクライアントのひとつになりました。もちろんアーティストのお仕事に加えて、グリコ、トヨタ、ドコモといった大手企業のCMにも携わっています。 」
振り付けのお仕事で、それほどまでに、なぜ業績があがってきたのでしょうか?
「アーティストさんたちは、人前にでて常に笑顔でいないとならないお仕事だから、プライベートでなにかあっても、ステージの上では絶対にそれをだせないですよね。
いいパフォーマンスができるように、本人たちはもちろん、常に周りのスタッフなどたくさんの人たちがベストな環境をつくるように尽力しています。私たちも振り付けを提供するだけでなく、アーティストがダンスを練習するときやリハーサルでは、楽しくなれる環境づくりを心掛けています。
楽しくないと、どんな仕事も続かないですよね。特に心がけているのは、褒められるのが嫌な人はいないので、なるべく褒めたり、ポジティブな空気で接することが出来たらいいなと思っています。
テレビのドキュメンタリーとかでは、ダンスの先生にストイックな感じで厳しく指導されているほうが絵になるので、そういう撮り方を要請されることもあります。しかし人は本来、怒られるより褒められるほうがうれしいと思うので、褒めてパフォーマンスをあげていくことを仕事仲間とも共通意識としてもって、共にやっています。
何より、自分たちがつくった振り付けを踊ってくれているアーティストさんに対する感謝の気持ちも、常に忘れないように心がけています。
また、アーティストさんだけでなく、その周りのスタッフさんや制作の方達が心地よく仕事ができるための一助になれればよいなと思って、何事にも取り組むようにしています。」
公開してしまうため、ここだけの話にはなりませんが、踊りの下手な人とかが中にはいるって思うのですが、どうやって対処するんですか?
「たしかにダンスの苦手な人もいたり、スキルにばらつきがあったりすることもあるのですが、個別に一緒に練習したり、見映えはキープしたまま苦手な動きを得意な動きに変更してみたり、ケースバイケースで対応しています。
実際、アイドルの立ち位置でセンターにいる人は、裏でちゃんと練習や努力をして、その成果としてセンターポジションにいることが多いように感じます。」
これからのお仕事はどういう方向へ?
「日本のお仕事も続けつつ、日本以外でもクライアントを広げたいです。たとえばアメリカへ日本の振り付けをもってきたらいいなって思っています。アメリカは特徴的なバイブス(パッション)の世界で、個性とかが貴重とされるのに対して、日本のシンクロやそろっていることを美学とするダンスを持ってくるのには、厳しいところもある世界だと思います。
それでも、そういった集団美みたいなものは日本だからこそできることと捉えて、たとえば、日本体育大学の集団行動みたいなダンスをアメリカに持ってこれたら面白いかもしれないですね。また、逆にアメリカにいるダンサーを日本で活躍できるようにしたりと、日本とアメリカのダンサーを橋渡しできたらいいなって思っています。」
※1.Pepper(ペッパーくん)は、2014年6月5日に誕生した身長121cmの人型ロボット。音声や胸のタブレットを通じてのやりとり、顔認識・感情認識などの多彩なセンシング機能を搭載している。(ソフトバンクのサイトより引用)
【プロフィール】
Fumiko
山口県下関市生まれ。ソフトバンク株式会社にて、モバイル事業部のプロダクトマーケティングに配属。絵文字デザインの企画等を担当した。ロボティクス事業部に異動後、ヒューマノイドロボットPepperのロンチ以前からの開発初期メンバーとして、UXデザインやアプリケーション企画等を担当。会社員の傍ら、会社公認の副業としてダンスエージェンシー、株式会社中央ラインを設立し、TVコマーシャルや著名アーティスト等多方面へ振付や出演ダンサーを提供。ソフトバンク株式会社の海外研修プログラムで渡米(大学院にてマルチメディアデザイン専攻)UXデザイナー、またダンスエージェントとして、日米で活動中である。
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com