NYで生きる!ワーキングマザーの視点
日本の篠笛がニューヨークに木霊した日~篠笛奏者 藤原雪
11月30日、翌日に国連本部で開催される第22回Infopoverty年次会議のサイドミーティングとして、日本生命主催のMusic for SDGs Receptionがルービン美術館にて開催され、篠笛奏者の藤原雪とサックス奏者の園山光博のコラボレーションで、コンサートが行われた。
Music for SDGs(大久保亮代表)は、国連SDGsを音楽を通じて推進するプロジェクト。日本発のSDGs推進プロジェクトとして、デジタルガーデンシティ山形プロジェクトと360VR教育プラットフォームが紹介されたが、山形出身で山形観光大使も務める藤原が音楽でバックアップした形だ。
藤原は、天皇陛下御即位奉祝の上山藩鼓笛隊(※1)でも奉奏されたという経歴をもつ。約150年の歴史ある日本の篠笛の音をニューヨークのチェルシーエリアにある美術館で、ガネーシャ(ヒンドゥー教の神の一柱)の像に見守られながら響かせたのは、彼女が初めてだろう。
ルービン美術館は、ヒマラヤやチベットをはじめとするアジアの文化や芸術を近代的なデジタルアートとコラボしている美術館。5階建てのビルの中央には108段のらせん階段がある。108は、仏教やアジアの宗教の聖なる数なのだとか。
そんなアジアの聖なる魂を降臨させるかのように、らせん階段の真下で藤原の篠笛の美しい音と、園山のサックスのスムーズな音が混じり合う。その神秘的なまでに美しく混じり合う音は、心地よいリズムとともに、再び魂をふくよかに携え、天に昇っていくように響いた。
藤原は、小学3年生のころから地元、山形県で篠笛を始めた。篠笛に没頭していった理由の一つとして、「どちらかといえば人と接するのが苦手で、笛を吹いていれば交流を免れることができる」と考えていたという。
今は、それほどシャイな感じはしないが、篠笛は彼女にとって人間関係を円滑に進めるための道具としての役割も備えていた。反面、そのおかげもあって幼少期から篠笛の練習に没頭するチャンスを得たといえる。だからこそ、これほど高いレベルまで篠笛を演奏できる技を、身につけることができたのかもしれない。
藤原と園山が出会ったのは、1年くらい前。藤原は、園山のサックスの音色に魅了された。
©NY1page.com LLC,(Music for SDGsの大久保亮代表、国連SDGsを音楽を通じて推進するプロジェクト)
これまで女性が祭事で篠笛を吹くというのは歴史的にタブーとされてきたのだが、藤原はそんな篠笛を日本の天皇陛下御即位奉祝という日本を代表する場所で演奏。
そして今、その厳格なる和の音に園山の魅力あるサックス、洋楽の音をミックスさせる新たなる試みを行っている。
ジャンルとしては、アンビエント・ミュージックと称するらしい。(環境音楽、アンビエント・ミュージックは、伝統的な音楽の構成やリズムよりも音色や雰囲気を重視した音楽のジャンルである。正味の構成、ビート、構造化されたメロディを持たないこともある。受動的、能動的なリスニングを可能にする音のテクスチャーの層を使用し、穏やかさや瞑想の感覚を促す 。ウィキペディアより)
今回、ニューヨークへ来た機会に、60年代に建てられたビル・ラズウェル(※2)が所有するスタジオで、篠笛を中心とするコラボレーション音楽の収録が行われた。
藤原が篠笛を奏でると、ビル・ラズウェルによって集められた先鋭なるミュージシャンたちが即興で音楽に加わるという、即興ジャズさながらの世界だったという。
これぞアンビエント・ミュージック!だからこそ、枠にはまらず、人の気(中国思想や道教や中医学などの用語の一つ。一般的に気は不可視であり、流動的で運動し、作用をおこすとされている。)を最優先にした、時と場所によって培われるニューヨークの音楽が創られたにちがいない。
彼らの和と洋のコラボによるアンビエント・ミュージックが聴けるリリースの日が、楽しみである。
藤原と園山は、翌日12月1日の国連本部での会議においても、Music for SDGsをテーマにした講演と共に、古典篠笛のメロディーを含む数曲を披露し、それが全世界に同時配信された。<敬称略>
(国連本部での会議の映像 2:18:00大久保代表のスピーチそして藤原、園山の演奏が流れます)
(※1)上山藩鼓笛隊
徳川家の譜代大名である上山藩では、江戸末期の戊辰戦争の頃にフランス式の調練を行っており、その時に演奏されたのがこの鼓笛楽です。明治11年(1878年)藩主を祀った月岡神社の遷宮式神輿渡御行列に参加して演奏を行ってから、毎年、月岡神社、宮脇・二日町両八幡宮の三社合同秋祭りで演奏することになりました。明治末期に一時中断しましたが、昭和2年(1927年)に復活して今日に至っています。
(※2)ビル・ラズウェル
アメリカ合衆国イリノイ州出身のジャズベーシスト、音楽プロデューサー。 ジャズ、ファンク、ダブ、テクノ、アンビエント、アヴァンギャルド、ワールドミュージックまで広範に音楽を手がけ、関わったアーティスト、作品は膨大な数に上る。 ウィキペディア
〜2017年11月3日、4日。大阪城で行われたブルターニュ大公城友好城郭提携記念パンフレットより〜
元々は身分の高い者しか演奏できなかった篠笛の伝統芸能のメロディーですが「それじゃ後継者育成できないよね」ということで男の人も許可されるようになり、先代の城戸口先生が頑張って動いてくれて30年前に女性の参画も許可されるようになりました。今後は異国の方も参画できるようになればいいなあと願っています。そして、もっとたくさんの方に篠笛のことを知ってもらえるように、工夫しながら伝統を守っていきたいです。
©XXII Infopoverty Annual Conference@United Nations
【プロフィール】
藤原雪(ふじわらゆき)
山形県上山市出身 4月9日生まれ。
幼少の頃、無形文化財 上山藩鼓笛楽隊(山形)に参加、篠笛に出会う。中学で吹奏楽部に所属しフルートを担当。ネパールに渡り、音楽教師を務める。音楽療法士の資格を取得、引きこもり支援活動にも関わる。現在はソロ活動の傍ら、女性三人のバンド「三人楽器」を結成、活動中。
過去に行われたワンマンライブは全てSOLD OUT、リリースシングルはiTunesチャート1位を獲得している。令和元年天皇陛下御即位奉祝行事に奉奏した他、和楽器とのコラボレーションなど多数。国連TVにも出演した。山形県観光つや姫大使。FM狛江ラジオパーソナリティ。趣味は読書とお風呂。
泣いた赤おに/藤原雪(篠笛) featuring 斎藤アリーナ(語り)
園山光博(そのやまみつひろ)
マルチ・サックス奏者。1987年オフコースのツアーに参加。園山光博Bandでの活動の他、ミュージカルのアレンジ等を手掛けている。現在も小田和正氏のコンサートやFAR EAST CLUB BANDでの活動、個人の『園山光博BAND』。小堺一機さんの『おすましでSHOW』でもバンマスとして活躍中。
<アルバム>
『金銀のサカナたち』『FAR EAST CLUB BAND』『ANOTHER MOONLIGHT』
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com