- HOME
- コラム
- ベストセラーからアメリカを読む
- 注目を集めるミレニアル世代の大統領候補ピート・ブテ…
注目を集めるミレニアル世代の大統領候補ピート・ブティジェッジ
観衆の熱狂とは対照的に、ブティジェッジはとても穏やかだった。そして、テレビに現れたときのように、シャープに政策を語りながらも礼儀正しく上品である。さらに際立った特徴は、難しい政策を語るときのわかりやすさだ。
オバマ大統領もそうだったが、リベラルで高学歴の政治家は難しい表現をよく使う傾向がある。また、語り口から「私たちは、あなたのためにこういう政策を作ってあげている。トランプ大統領がやっていることは、あなたの利益になっていないのに、なぜそれが理解できないのか?」という上から目線の態度がにじみ出てしまう。中西部のラストベルトの人々が西海岸や東海岸のリベラルエリートを嫌うのは、この見下した態度なのだ。それをブティジェッジはよく知っている。だから、ふだんから有権者と同じ目線で語るように心がけているのだ。簡単そうで簡単にはできない技術である。
ブティジェッジのイベントの後で、参加した有権者たちから話を聞いてみた。予備選で最も重要なバトルグラウンドであるニューハンプシャー州には多くの大統領候補が毎週訪れる。彼らのスムーズな演説や約束に慣れきっているニューハンプシャーの有権者を説得するのは難しいのだが、彼らは口を揃えて「非常に印象的だった」、「予想していたより良かった」と感心していた。
ことに、「(トランプの)下品な攻撃に対して、(リベラルは)同じような攻撃で対応するべきではない」というブティジェッジの姿勢や、市民のためになる問題解決のために対立する党や政治家と協働してきた実績に共感を覚えたようだ。37歳という年齢についても「今の大統領よりずっと成熟している大人」「若い世代のほうがいい」とポジティブな回答のみであり、欠陥だととらえていた人は皆無だった。
つい最近まで無名だったブティジェッジがこれほど多くの有権者を魅了しているのは、「現在の大統領と正反対」という部分なのだろう。懐古主義で、反知性主義で、下品になった現在のアメリカを、ブティジェッジのように若く、知的で、上品なアメリカに戻したいと願っているアメリカ人は決して少なくないことを感じた。
ブティジェッジのイベントの後、「アメリカを再び偉大にしよう(Make America Great Again)」というトランプのスローガンに対する「アメリカを再びまともにしよう(Make America Decent Again)」とつぶやく有権者の声が聞こえた。
【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>
英王室から逃れたヘンリー王子の回想録は、まるで怖いおとぎ話 2023.01.14
米最高裁の中絶権否定判決で再び注目される『侍女の物語』 2022.07.02
ネット企業の利益のために注意散漫にされてしまった現代人、ではどうすればいいのか? 2022.03.08
風刺小説の形でパンデミックの時代を記録する初めての新型コロナ小説 2021.11.16
ヒラリーがベストセラー作家と組んで書いたスリル満点の正統派国際政治スリラー 2021.10.19
自分が「聞き上手」と思っている人ほど、他人の話を聞いていない 2021.08.10