コラム

注目を集めるミレニアル世代の大統領候補ピート・ブティジェッジ

2019年04月11日(木)19時50分

観衆の熱狂とは対照的に、ブティジェッジはとても穏やかだった。そして、テレビに現れたときのように、シャープに政策を語りながらも礼儀正しく上品である。さらに際立った特徴は、難しい政策を語るときのわかりやすさだ。

オバマ大統領もそうだったが、リベラルで高学歴の政治家は難しい表現をよく使う傾向がある。また、語り口から「私たちは、あなたのためにこういう政策を作ってあげている。トランプ大統領がやっていることは、あなたの利益になっていないのに、なぜそれが理解できないのか?」という上から目線の態度がにじみ出てしまう。中西部のラストベルトの人々が西海岸や東海岸のリベラルエリートを嫌うのは、この見下した態度なのだ。それをブティジェッジはよく知っている。だから、ふだんから有権者と同じ目線で語るように心がけているのだ。簡単そうで簡単にはできない技術である。

ブティジェッジのイベントの後で、参加した有権者たちから話を聞いてみた。予備選で最も重要なバトルグラウンドであるニューハンプシャー州には多くの大統領候補が毎週訪れる。彼らのスムーズな演説や約束に慣れきっているニューハンプシャーの有権者を説得するのは難しいのだが、彼らは口を揃えて「非常に印象的だった」、「予想していたより良かった」と感心していた。

ことに、「(トランプの)下品な攻撃に対して、(リベラルは)同じような攻撃で対応するべきではない」というブティジェッジの姿勢や、市民のためになる問題解決のために対立する党や政治家と協働してきた実績に共感を覚えたようだ。37歳という年齢についても「今の大統領よりずっと成熟している大人」「若い世代のほうがいい」とポジティブな回答のみであり、欠陥だととらえていた人は皆無だった。

つい最近まで無名だったブティジェッジがこれほど多くの有権者を魅了しているのは、「現在の大統領と正反対」という部分なのだろう。懐古主義で、反知性主義で、下品になった現在のアメリカを、ブティジェッジのように若く、知的で、上品なアメリカに戻したいと願っているアメリカ人は決して少なくないことを感じた。

ブティジェッジのイベントの後、「アメリカを再び偉大にしよう(Make America Great Again)」というトランプのスローガンに対する「アメリカを再びまともにしよう(Make America Decent Again)」とつぶやく有権者の声が聞こえた。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story