コラム

トランプ時代に売れるオバマとバイデンの「ブロマンス」探偵小説

2018年08月17日(金)17時00分

「ブロマンス」とは、「兄弟(ブラザーズ)」と「ロマンス」を合わせた造語で、男性同士の性的ではなく、恋愛でもない親密な関係を示す。近年のインターネットで最も人気がある「ブロマンス」のひとつが、イギリスBBC制作の『SHERLOCK(シャーロック)』でのシャーロック・ホームズとジョン・ワトソンとの関係だ。

シャファーは、「男性の友情物語はハリウッドで常に人気があるもので、80年代や90年代には男2人が主人公の作品が大人気だった。『リーサル・ウェポン』、『デッドフォール』とか。『ホープ・ネバー・ダイズ』では、そのテンプレートに倣い、オバマ大統領とバイデン副大統領を典型的な相棒警官の役割にはめこんで、読者の期待を利用しようとした」と説明している。

しかし、「『ブロマンス』と『ロマンス』にはほとんど違いはない」というシャファーの意見は、『リーサル・ウェポン』が流行った時代のアメリカ人の感覚とは異なると言えるだろう。「男性同士の恋愛ではない親密な関係」というこれまでの定義を否定し、『ホープ・ネバー・ダイズ』は、昔恋人だった2人が再会する、というよくあるロマンス小説のコースを辿っている」というのだ。シャファーの意見は、「ファンフィクション」での「ブロマンス」に慣れているミレニアル世代にはすんなりと通じるだろうが、それ以外の読者には理解しにくいものだと思う。実在の人物を勝手に創作することに対して居心地悪さを感じる者もいるだろう。

これらの点からも『ホープ・ネバー・ダイズ』の読者層は一般的ではない。それなのに、発売時にニューヨーク・タイムズ紙と USA Today のベストセラーリストに入ったのは、それだけ多くのアメリカ人がオバマ政権を恋しがっているということなのだろう。フィクションの世界だけでも、オバマとバイデンの2人が活躍し続ける世界を想像したいのだ。

このノスタルジアが今年11月の中間選挙に影響を与えるかどうかにたずねると、シェファーは「わからない」と答えつつも、「オバマ大統領とバイデン副大統領が選挙の応援で表面に現れることは期待している」と言う。

この対話をしている最中に、オバマ大統領とバイデン副大統領が退役軍人を支援するベーカリーに一緒に現れ、明るいニュースとして歓迎されていた。

オバマ政権を恋しがるアメリカ人にとって、続編はまだ終わっていないということなのだろう。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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