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アメリカでようやく根付き始めた日本のライトノベル
ALAの会員である図書館員のマジョリティは性的暴力やマイノリティへの差別などのポリティカル・コレクトネスにも敏感だ。彼らは、セックスを娯楽として表現することには寛容だが、ティーン向けのYAフィクションで性的暴力や差別などのテーマが扱われるときには「問題提起」であることを求める。未成年者が対象の本でそれらがただのエンターテイメントとして扱われている場合には、強い拒絶反応を示す。
こういった環境では、幼い少女を連想させる「美少女」がセクシーなポーズを取る表紙が多いライトノベル全体を児童書部門の一部であるYAとして認めてもらうのは困難である。
もうひとつの問題はページ数と文章表現だ。
アメリカでは通常のYAフィクションは1冊300~400ページで、500ページ以上のものもある。だが、これを日本語に翻訳すると1冊には収まらず、上下巻、上中下巻に分けざるを得なくなる。逆に、日本のライトノベルを英語に訳すと200ページ以下の薄っぺらな本になってしまう。また、プロットと会話中心のライトノベルは、スピード感はあるが、文章での描写を楽しむことに慣れているYAフィクションのファンにとっては物足らなく感じる。
むろん、日本のライトノベルでも、この環境でYAとして受け入れられる作品はある。2009年にアメリカで翻訳出版された『涼宮ハルヒの憂鬱(The Melancholy of Haruhi Suzumiya)』がそのひとつで、ペーパーバック版の表紙はYAジャンルを意識したものだった。読者の反応は良好である程度売れたようだが、YAの読者層に「ライトノベル」のインパクトを与えるほどの成功ではなかった。
実は、「ライトノベルをYAとして売らない」というのは、アメリカでライトノベルを刊行している出版社の決断なのだ。
アメリカでのライトノベルのリーダー的存在は、Seven Seas Enertainment や Yen Press出版のライトノベル専門インプリント Yen On である。どちらも日本の漫画を翻訳出版しており、ライトノベルの取次に漫画やアニメ専門のダイヤモンド・ブック・ディストリビューションを使っている。
Yen Press の共同創始者で Yen On の責任者であるカート・ハスラー氏にこの決断について尋ねてみた。Yen Press はアシェットグループとカドカワが共同出資している漫画専門の出版社だ。
ハスラー氏は「主人公とターゲットになる読者がティーンだということでYAのカテゴリに含まれてもよいライトノベルは多い」としながらも、「ライトノベルが一様にはYA指定にはならない」ことが大きな問題だという個人的な見解を語ってくれた。なぜなら、ライトノベルは「主人公のすべてがティーンとはかぎらず、ティーンの読者を主要なターゲットにしたものばかりではない」からだ。
YAの指定にならないとすれば、大人向けのフィクションのジャンルに入れるという方法もあるが、ライトノベルにはSF、ファンタジー、ロマンスなど多くのカテゴリがある。個々のジャンルでライトノベルを売り込むのは非常に困難だ。書店や図書館にライトノベルの存在を理解してもらうのが難しいだけでなく、潜在的な読者に見つけてもらいにくくなる。
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