コラム

大統領選の波乱を予兆していた、米SF界のカルチャー戦争

2016年12月20日(火)17時40分

 ジェミシンは、9月の「アトランティック誌」の取材にこう語っている

「復古主義的な運動は、捕まえて燃やす新しいものを見つけないかぎり、維持することはできない。同じ戦術を何度も繰り返しても維持できるとは思わない。そのうち、自らを燃やし尽くしてしまう時が来るだろう。ほかに良い説明がないけれど、ドナルド・トランプ主義のような――。いつか、復古主義運動ではなくなり、デマゴーグが先導して、すべての問題は自分中心になってしまう。そのとき、この運動が、狭量でナルシスティックなものだということが明らかになる。それが、(パピーズ)の終焉だと思う。(それが正しいかどうか)そのうちわかるだろう、ヒューゴー賞にしても、11月の選挙にしても」

 今年この作品を選んだことで、ヒューゴー賞はパピーズとその復古主義に勝ったことになる。だが、11月の選挙は異なる結果になった。

 アメリカの現状を見る限り、ヒューゴー賞の戦いは来年も続くことになるだろう。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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