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アメリカ政治を裏で操るコーク兄弟の「ダークマネー」
しかし、国民の怒りをエネルギーにするトランプとサンダースのムーブメントは、次第に過激化して党の存在を脅かすまでになっている。
「アメリカを改善するためには、このくらいの急激な変化が必要だ」と語る人は少なくない。だが、アメリカという巨大な国を破壊せず、99%の国民の収入を増やすのは簡単なことではない。
アメリカでは、法律の原案作成から公布まで、異なる政党のメンバーで構成される委員会でのネゴシエーション、議会での討論と草案の変更、予算討論、再び委員会での話し合い、再び議会での討論と変更、そして最終的に投票というプロセスが必要だ。つまり、一人の政治家や大統領がどんなにピュアな理想を持っていても、思い描いた通りの法律を作ることは不可能だ。どこかで妥協をしなければならないし、妥協を拒んだら何も解決しない。
この部分にフラストレーションを覚えている真摯な政治家はいるし、フラストレーションを抱えながらも、国民のためになる法律を可決する努力をしている政治家はいくらでもいる。国を変えるためには、こういった政治家を地道に増やし、応援し続けるしかないのだ。
だが、トランプとサンダースの熱狂的な支持者たちは、その部分をまったく無視して、これまで地道な努力をしてきた政治家すら「エスタブリッシュメント」として否定し、批判している。
これでは、コーク兄弟らの思う壺だ。
【参考記事】米共和党、トランプ降ろしの最終兵器
しかし、コーク兄弟ら保守派の大富豪にとっての大きな皮肉は、計算にまったく入れていなかったトランプの登場だ。トランプは、コークたち富豪を必要としていないから、彼らの言うことはきかない。そして、コークらが作りだしたティーパーティの代表テッド・クルーズを退けて共和党の筆頭候補になり、このままでは大統領にもなりかねない勢いだ。
経済や外交面での政策がなく、行きあたりばったりで、毎日のように発言が変わるトランプは、安定を重視するウォール街やグローバル・ビジネスマンにとっては悪夢のような存在だ。トランプが大統領になったら、株が大暴落し、巨額の資金を失う可能性もある。そこで、トランプを阻止するために巨費を投じてコマーシャルを流しているが、それでもトランプの勢いは強まるばかりだ。
コーク兄弟らは、庶民の味方であるリベラルな政治家を潰す目的は果たしたが、その過程で、フランケンシュタイン博士のように、自分では操れないモンスターまで生み出してしまったのだ。
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