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インターネットで他人を血祭りにあげる人々
ツイート炎上事件を起こしたジャスティン・サッコは大好きだった仕事を失い、自分や家族が見知らぬ者に攻撃されることに怯え、友だちや同僚を失って孤独に陥り、鬱状態になった。全世界が名前を知っているような状況で次の職を得ることは難しく、ようやく次の職を得たのは1年後のことだ。もちろん以前のようなポジションではない。
ジャスティンはそこまで罰せられるほどの罪を犯したのだろうか?
ロンソンも私もそうは思わない。だがロンソンがそう語ったところ、「1年後に職を見つけているじゃないか」と、かえって攻撃を受けたそうだ。
ロンソンは、「初期の頃のツイッターでは、人々は自分の欠点や秘密に正直でいられた。そんなエデンの園の雰囲気があった。なのに、急速に凋落して地獄(hell)になってしまった」と嘆いた。使用者が増えた今のツイッターは、互いの言葉尻を捉えて糾弾する場に変わってしまったからだ。
最近聞いた講演でもロンソンは、「(初期の頃)フェイスブックは知り合いに嘘を言う場所、ツイッターは見知らぬ人に本音を打ち明ける場所だった」と語っていたが、長年ツイッターをやっている私もそんな印象を抱いている。もうその頃の「楽園」は戻ってこないのだろうか?
ロンソンは、2011年に私がブログで紹介して、それがきっかけで日本語に翻訳された『Psychopath Test(サイコパスを探せ! : 「狂気」をめぐる冒険)』の著者であり、メディアに決して応じない人々から取材するのが異様にうまい。相手の心にじんわり忍び込んでしまう特技があるのだろう。本書の魅力は、扱っているトピックの面白さだけでなく、ロンソンという人そのものでもある。彼が書く本の絶妙な味を知ったらやみつきになることまちがいなしだ。
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