コラム

インターネットで他人を血祭りにあげる人々

2015年09月30日(水)19時20分

 そのうち、"How did @JustineSacco get a PR job?! Her level of racist ignorance belongs on Fox News. #AIDS can affect anyone!"(こんなジャスティン・サッコがどうやってPRの仕事を得られたわけ?! 彼女の人種差別と無知のレベルはフォックスニュース並だわ。エイズは誰だってかかるのに!)という非難のツイートが生まれ、それに刺激されて怒りのバリエーションも増えていった。

 次に登場したのが、その炎上を娯楽として喜ぶ人たちだ。

"All I want for Christmas is to see @JustineSacco's face when her plane lands and she checks her inbox/voicemail."
(飛行機が着陸して電話のメッセージをチェックするときのジャスティン・サッコの顔を見てみたい。クリスマスのプレゼントにほしいのはそれだけさ)

"We are about to watch this @JustineSacco bitch get fired. In REAL time. Before she even KNOWS she's getting fired."
(しめしめ、ジャスティン・サッコというビッチが解雇されるのをリアルタイムで見られるぞ。それも、本人が知る前にな)

という悪意に満ちたツイートもあふれた。

 私もこの事件を覚えているが、最初は「PR専門家にしてはツイートへの考慮が足りない」と呆れて憤り、「企業はもっとソーシャルメディアの使い方を社員に教育するべきじゃないだろうか?」と思った。だが、すでに何度も謝罪しているジャスティンに対する度を超えた悪意を目にするうちに居心地が悪くなったことは事実だ。

 ネットで「正義の味方」になるのは簡単だ。叩きやすい人を見つけて、正義の名のもとに制裁を与えればいいのだから。匿名のままでいれば、自分が公で処刑されるリスクを犯さずに攻撃できる。これほど鬱憤晴らしになる娯楽はないだろう。

 実際には他人を救う力がなくても、他人の人生を破壊するパワーは誰にでも持てる。それを使う「スーパーヒーロー」たちが蔓延しているのが今のインターネットの世界だ。

 ただし、この悪意のパワーは誰の中にも潜んでいる。気をつけていないと、自分自身も正義感を振りかざして他人を破壊するスーパーヒーローになってしまう。

 ジャーナリストで作家のジョン・ロンソンはそんな危機感を持って『So You've Been Publicly Shamed (English Edition)』(それゆえあなたはネットで晒された)という本を書いた。彼は、ジャスティンのようにネットで血祭りにあげられ、人生を破壊された人々を紹介し、私たち一般人の中に潜んでいる悪意とそれを増幅するネットの恐ろしさに警鐘を鳴らしている。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 8
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story