コラム

「山越え」で東京脱出、人の朗らかさに触れてホッとする

2019年04月11日(木)16時30分

撮影:内村コースケ

第5回 小仏バス停→景信山→陣馬山→藤野駅
<平成が終わり、東京オリンピックが開催される2019年から2020年にかけて、日本は変革期を迎える。名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

◆祝日の東京近郊の山へ

01001a.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの4回で歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

今回はこの旅初の「山越え」である。東京湾岸の晴海埠頭から歩き継いできて、4回目の前回、ついに東京都の人里が途切れる裏高尾までやってきた。車の一般道ルートなら、国道20号で大垂水峠を越えて東京脱出となるわけだが、車の騒音と排気ガスにまみれた国道の峠道は、歩行者にとってはまさに"酷道"である。なので、今回の都県境越えは、前回ゴール地点の小仏バス停近くの景信山登山口から登山道に入り、そのまま稜線を辿って陣馬山経由で神奈川県側の藤野駅へ下りる軽登山のコースを取ることにした。

190321016.jpg

景信山山頂に向かう登山道。祝日とあって登山者の列ができていた

登山決行日は3月21日、春分の日。春の祝日の東京近郊の山ゆえに、登山道の大渋滞を覚悟しつつ、我々も『日本縦断徒歩の旅』過去最多の5人のパーティーで臨んだ(日帰りで繋いでいくこの旅は毎回参加が義務の筆者以外は参加自由である)。

起点となるJR高尾駅から小仏バス停までのバスはハイシーズン仕様の2台運行体制で、それも満員。とはいえ、山はやはり街よりもキャパシティが大きい。登山口から景信山山頂までの約1時間の上りこそ他のパーティーと共に大名行列で歩くシーンがあったものの、前後がつかえるほどの渋滞は起きなかった。曇時々雨の天気予報がいい方向に外れて青空が広がるという幸運に恵まれたのも大きかったかもしれない。

◆自分たちが歩いてきた街を見下ろす

190321006.jpg

前を歩く登山者のリュックに赤いバッジが揺れていた

景信山山頂までの行列登山の最中、前を歩く壮年女性のリュックに赤地に白文字の「アベ政治を許さない」バッジが揺れていた。僕は、行程の3分の1くらいを上下に揺れる現首相への非難声明を見ながら歩いたわけだ。これにはなかなかの催眠術効果があったようで、しばらくこの赤いフレーズが頭から離れなかった。

でもこれ、時の政権のトップに対する非難だからまだ許されているけれど、人の仕事やスタンスを名指しで公に非難することを「許さない」と感じる人もいるのではないだろうか(今の正義感溢れるネット社会ならなおさらである)。「アベ政治」のどこがいけないのか個別的・具体的に説明できないのなら、それは批判ではなく感情的な「非難」であり、昨今流行の言い方なら「ヘイトスピーチ」に当たるのではなかろうか。せめて人格に対する揶揄混じりの「アベ」はやめて、堂々と「安倍晋三」とフルネームの呼び捨てで糾弾する覚悟が欲しい。

190321027.jpg

景信山山頂付近からこれまで歩いてきた東京の街を見下ろす

そんなことを考えているうちに、東の都心側の眺望が一気に開けてきた。これまで歩いてきた約80kmの道のりが一望でき、なかなか感慨深い。スタート地点の東京湾が霞んで見えなかったのは、それだけ遠くまで来た証か、春霞のせいか、はたまた東京の大気汚染のせいだろうか。今登っている山々に沈む夕日を眺めた多摩丘陵も、ずいぶんと低く見えた。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story