コラム

マスクの季節、電柱の林を超えて梅と高速道路の里・高尾へ

2019年04月03日(水)16時30分

撮影:内村コースケ

第4回 東京・豊田駅前→小仏バス停
<平成が終わり、東京オリンピックが開催される2019年から2020年にかけて、日本は変革期を迎える。名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

・前回はこちら 第3回 「耳をすませば」の舞台、青春の記憶呼び起こす多摩の丘

◆マスク姿の人々が行き交う春の街頭

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「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより


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豊田駅付近

東京湾の晴海埠頭から歩き継いできた旅の4回目は、JR中央線の豊田駅前からのスタートとなった。東京最後の街、八王子は目前である。調布駅前から歩いてきた前回から東京はすっかり春の陽気。この日(2019年3月17日)は、スギ花粉も元気に飛び回っていた。そんな春の日曜日だったから、道行く人々の大半がマスクを着用していた。

世界中を見渡せば、日本ほど通行人のマスク率が高い国はない。それも、飛び抜けている。僕は長年東京のストリート・スナップを撮り続けているが、外国人に通行人や群衆が写っている写真を見せて「東京では今疫病が流行っているの?」「やはり大気汚染がひどいの?」「フクシマの影響がまだあるの?」などと聞かれたのは2度や3度ではない。

統計があるわけではないので、全く個人的な印象だが、花粉症が広く意識されるようになった1990年代以降からマスク率はじわじわと上がり、2011年の3.11を境に着用者が激増したと感じている。しかし、海外では花粉症に苦しむ人は日本ほどには多くないし、世界のほとんどの地域では、医療従事者や清掃業者などを除く一般人がマスクを着用するシーンは日常的ではない。

片や日本では、3人に1人が罹患していると言われる花粉症は、もはやれっきとした国民病だ。海外にも花粉症はあるが、日本の場合は症状が激しいスギ花粉の割合が非常に高いため、目立って表面化しているのだという。では、なぜ、スギ花粉が多いかというと、戦後の高度成長期に関係している。復興を急いだ日本は森林にも高い経済性を求めた。ざっくり言えば、自然の雑木林を切り開いて「売れる」杉を植えまくった結果なのだ。この話はいずれまた、旅が杉林が多い山間地に入った時にでも詳しく考察していきたいと思う。

◆「マスク率」は日本社会のバロメーター?

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マスク&新聞、マスクなしでスマホ・・・昭和世代と平成世代のコントラスト?=日野市内

ところで、公道や公共施設、店舗などで目出し帽をかぶっている人の姿を想像してほしい。白状すれば、僕には、マスク姿もそれと大差ないように見える。つまり、世間の人たちが着用しているあの花粉症予防の白いマスクも、ロボットアニメの敵役や覆面レスラー、コンビニ強盗らが着用している覆面と同一線上のものに見えてしまう。欧米には同じ感覚を持っている人が多いようで、日本の街のマスク率の高さが異様に感じられがちなのは、そのためであろう。

そもそも英語のMaskやフランス語のMasqueは、ズバリ「仮面」「覆面」という意味なので、マスク=覆面という認識は決して間違ってはいまい。だから、僕はどうしても咄嗟の感情としては、マスクをしたままの接客などは失礼に感じてしまう。もちろん、花粉症やインフルエンザ予防のためだということを思えば面と向かって「失礼だ」とは言えないし、自分がこの国ではマイノリティだということも分かっている。ただ、グローバルな感性を増している今の若い人たちがマスクをどう捉えているかは、気になるところだ。

かように、マスク姿の人々が行き交う日本の街頭風景には、森林の環境問題から、林業の行方、日本人のメンタリティ、はたまた働き方改革(体調不良でもマスクをして出勤する人が多い?)など、さまざまな社会問題が絡んでくる。僕は、日本人の「マスク率」を、日本社会の現状を測るバロメーターだと思っているくらいだ。

◆電柱と電線の街

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電線の先に住宅が密集し、背景に山が見える現代日本の象徴的風景=日野市

前回、今回と歩いている多摩地区の住宅街に限らないが、日本の郊外の風景には「電柱」と「鉄塔」がつきものである。そんなもの世界中どこにでもあるではないか、と言われればその通りなのだが、小池百合子都知事が電柱ゼロ政策を掲げて訴えるように、日本は先進国の中では電線の地中化が著しく進んでいない。人口密度が高い分、電柱・電線の数自体も多い。

日本の無電柱化を目指すNPO法人『電線のない街づくり支援ネットワーク』の調べによれば、日本の電柱の数は3,407万1436本(2016年度時点)で、近年になっても年間8万本弱のペースで増えているそうだ。ロンドンやパリでは産業革命の時代から電線の地中化が進んでおり、アジアの主要都市と比べても、日本の都市部の電柱の林っぷりは異常だ。

国土交通省のwebサイトに掲載されている表によれば、ロンドン・パリ・香港・シンガポールの無電柱化率は100%で、台北も96%。ソウルは49%と半分に下がるが、それでも東京23区の8%、大阪市の6%よりはずっと地中化が進んでいる。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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