「耳をすませば」の舞台、青春の記憶呼び起こす多摩の丘
◆旅とは自由になること
ただ、昔のことで良く覚えていることが一つある。僕らのクラスは高3の文化祭で映画を作ったのだけど、彼女は監督・脚本の僕に、「主人公が通勤・通学をする人たちの波に逆らって、反対方向に歩き続けるシーン」の挿入を強く主張した。なんとか入れようとしたものの、結局そのシーンは入れなかった。それを伝えた時の彼女の悲しそうな顔を思い出すと、今でも胸がチクリとする。
きっと彼女は、この「歩き旅」にも、世間の波と反対方向に歩くイメージを感じたのだと思う。つまり、ほんの数時間だけでいいから日常の奔流を逆走して、自由になりたかったのだと、僕は心の中で解釈した。旅とは「世間」を離れる自由の希求である。この数時間の間、自由を感じてもらえたのなら、少しは30年前の償いになる。
「間に合った」--。息を切らせて急坂を登り、『耳をすませば』の少年が少女に見せたのは、丘の下の町に昇る朝日だ。僕も、日没直前に目指す絶景スポットに着くと、「間に合った」と同じセリフを吐いた。しかし、人生の下り坂に入っている僕らが見たのは沈みゆく夕日だ。午前中に塾長と見た富士山も、今は夕焼けに染まっていた。
「マドンナ」とは丘の下の平山城址公園駅で別れた、もうほとんど日は暮れていたが、まだ元気があったので、もう少し進むことにした。この先を考えて、北上して甲州街道ルートに戻しておきたかったのだ。電柱の林の先にある富士山を見てから、JR中央線の豊田駅近くのイオンモールでゴール。次回は、八王子、高尾を経て、"コンクリート・ロード"を脱出すべく小仏峠の登山口を目指す。
今回の行程:調布駅前─豊田駅前(https://yamap.com/activities/3223632)
・歩行距離=25.11km
・歩行時間=11時間1分(うちゴール地点での逗留約2時間)
・高低差=115m
・累積上り/下り=654m/595m
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