コラム

外交の長い道のり──サイバースペースに国際規範は根付くか

2018年10月26日(金)17時50分

GGEを主導してきたロシアは、第6回のGGE開催を検討しているとも伝えられているが、性急に成果を求めず、これまで2年単位で行われてきた議論を3年かけて行うというアイデアもあるようだ。

英国政府が呼びかけたロンドン・サイバースペース会議

サイバースペースにおける国際規範を求める動きは国連のGGEだけではない。

2011年9月12日、中国、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの4ヵ国は、国連に情報セキュリティ国際行動規範の案を提出した。この4ヵ国は、サイバースペースで各国が責任ある行動をとるという国際行動規範を作るため、国連総会がこれを議論すべきだとしていた。この動きは先述のGGEでの議論に取り込まれていく。

また、同じ2011年には英国政府の呼びかけで、ロンドン・サイバースペース会議が開かれた。これは英国外相の呼びかけに応じた国々から参加者を集め、まずは話し合いを始めようというものだった。2012年にはハンガリーのブダペストで、その後、韓国のソウル(2013年)、オランダのハーグ(2015年)、インドのニューデリー(2017年)と開かれている。ロンドンで始まったので「ロンドン・プロセス」と呼ばれることも多い。

フランスの複数のシンクタンクによって共同で設立されたパリ平和フォーラムは、2018年11月にパリで開く会議において、「サイバースペースにおける信頼とセキュリティのためのパリ宣言」を出すための準備を行っている。

「サイバースペースの安定性に関するグローバル委員会(GCSC)」

ロンドン・プロセスの一環として2015年にオランダのハーグでサイバースペース会議が開かれると、オランダ政府が支援して「サイバースペースの安定性に関するグローバル委員会(GCSC)」が2017年に設立された。冒頭で取り上げたシンガポールでの会議はこのGCSCのものである。

GCSCは、26人の委員が各国から任命されている。事務局はオランダのハーグ戦略研究センター(HCSS)および米国のイースト・ウエスト・インスティテュート(EWI)が担っている。GCSCはサイバースペースの安定性に資する国際規範の作成に力を入れている。GCSCはインターネットの公的な中核を保護すべきという規範を発表しており、さらにいくつかの規範を発表する予定になっている。

GCSCはオランダ政府やシンガポール政府の支援を受けるなどしているが、政府間機構という意味での国際機関ではない。GCSCが2019年に発出を予定している報告書は、サイバー問題を考える各国の政策担当者や実業家、学者、そして市民たちに向けたものになるだろう。

GGEが合意に達しなかったこともあり、2018年7月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「デジタル協力についてのハイレベル・パネル(High-level Panel on Digital Cooperation)」を組織した。共同議長は米国のビル&メリンダ・ゲイツ財団のメリンダ・ゲイツと、中国のアリババ・グループのジャック・マーである。そして世界各国から18人のメンバーが選ばれた。GCSC議長のマリーナ・カリュランドもメンバーとして参加している。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story