コラム

日本関連スノーデン文書をどう読むか

2017年05月08日(月)15時30分

セキュリティとプライバシー

国際捕鯨委員会の事例のように、日本が米国のインテリジェンス活動の対象になったことを非難するのはナンセンスだろう。外交・安全保障の世界では、実は、信じ切っていた同盟国に裏切られるのが最もダメージが大きい。従って、同盟国もまたインテリジェンス活動の対象になる。国際捕鯨委員会の事例では、日米の利害が対立しており、会議が米国内で開かれているのだから、当然そうした対象になっていると日本側は想定し、交渉すべきだっただろう。

ある日米協議が東京で行われたときのことである。協議を中断し、それぞれの側で検討する時間が設けられたとき、米国交渉団は日本政府が用意した部屋を使わず、寒空の中庭に出て円陣を組みながら対処方針を検討していたという。日本政府が用意した部屋には盗聴器が付いていると想定していたのだろう。それが当たり前である。

むしろ、日本も交渉事では、そうした態度を見せるとともに、インテリジェンス能力を高めるべきだろう。日本もまた米国をインテリジェンス活動の対象にすべきである。同盟国だからこそ、米国の真意を確かめなければならない。そうしなければ一人前の交渉はできない。

日本が第二次世界大戦で負けた要因の一つはインテリジェンスである。当時の日本政府、そして日本軍はあまりにもインテリジェンスを軽視し、情報参謀よりも作戦参謀を重用した。日本が優れたインテリジェンス組織を持ち、的確な情勢判断ができていれば、そもそも戦争を始める必要すらなかったかもしれない。

日本は平和憲法を持つ国である。だからこそ、インテリジェンスは必要な能力である。戦争を回避し、自国の安全を保障するためにインテリジェンス能力の向上が求められている。「セキュリティとプライバシーのバランスをとれ」というのは簡単だが、多くの人は自分のセキュリティが脅かされたとたん、「政府は何をやっているのか。警察や防衛省は何をやっているのか」と言い出す。しかし、セキュリティ能力は一夜にして向上するものではない。平時から努力しておかなければ間に合わない。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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