コラム

羽生結弦さんに日中関係は救えない

2022年10月17日(月)16時30分
周 来友(しゅう・らいゆう)

そもそも50年前、日本が対中関係の正常化に乗り出したのは、アメリカの動きを察知したからにすぎない。ニクソン米大統領は1972年2月に中国を訪問したが、米中の国交正常化が実現したのは1979年1月。対する日本は、1972年9月に田中角栄が首相として初訪中するや、すぐさま正常化にこぎ着けた。

そして50年後の今、式典に首相が顔を見せないほど関係が冷え込んでいるのも、アメリカの対中強硬姿勢が影響している。つまり50年たっても日本は自発的な外交ができておらず、対中関係の改善に向けた強い意思が感じられないのだ。

ただ、田中首相時代に総理大臣秘書官だった御年95歳の木内昭胤氏が式典で披露した裏話には心を打たれた。

当時、田中首相らが北京に乗り込んで行った際、石原慎太郎氏ら自民党内のタカ派保守グループ(後の青嵐会)が空港で待ち構えていて、刺されるかもしれないと警戒したという。

中国側も、周恩来主導で国交正常化に動いていたものの、1960年代に文化大革命を主導した「四人組」が反対していた。田中首相ら訪中団は、本来予定していなかった上海にも赴いたが、それも田中首相と会わせることで反対派を説得しようと考えた周恩来の希望によるものだったらしい。

アメリカの動きに反応した結果とはいえ、国交正常化は当時の関係者の強い意思と覚悟があってこそ実現した。

確かにこの50年、両国の関係は山あり谷ありだが、先人たちの努力を無駄にしないためにも、両国のリーダーには積極的かつ忍耐強い外交を行ってもらいたい。

Zhou_Profile.jpg周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院修了。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレント、YouTuber(番組名「周来友の人生相談バカ一代」)としても活動。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ブラックストーン、10─12月手数料収入が過去最高

ビジネス

USスチール、第4四半期決算は減収・赤字 需要環境

ワールド

ロシア、ウクライナの集合住宅にドローン攻撃 9人死

ビジネス

米UPSの25年売上高、アマゾン配送50%超削減で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story