コラム

「日本人は自分の死にまで準備万端か」 日本語発shukatsu、seizensoに海外の注目集まる

2022年09月30日(金)11時47分
トニー・ラズロ
日本の葬式

YUUJI/ISTOCK

<日本で広まりつつある「終活」「生前葬」が海外メディアで紹介される機会が増え、「きちんとした日本人」のイメージとともに関心が高まっている>

「いいか、トニー君。あの世に持って行ける唯一のものは、それまで人にあげてきたものだ」。30年前に知り合った日本人のFさんは、80歳超。会話に少しでも間があれば、論語を取り入れ、話を展開させてくれる楽しい人だ。

「それ、孔子の言葉ですか?」

「いや、サンスクリットだ」

この日は論語じゃなかった。

サンスクリットと言えば、インドの古い言語。「鉢」や「旦那」もそうだが、サンスクリットに由来する言葉が日本語にいくつも溶け込んでいることを考えれば、遠いインドのことわざが日本に渡ってくるのもおかしくはない。

「そういえば、トニー君は日本に骨をうずめるんだっけ?」

「さあ、どうかな」

Fさんとは何でも話せる仲だけれど、この質問にはちゃんとした返事をできなかった。「あの世」的なテーマをいきなり振られて戸惑ったが、それよりも、自分は「まだまだ若い」と勝手に思い込んでいて、自分の骨云々(うんぬん)についてあまり考えてこなかったことに気付かされた。

西洋の言語には「自分の骨云々」を考えるためのちょうどいい単語がない。つまり、日本語の「終活」に相当する言葉だ(これは10年ほど前の造語ではあるが、既に市民権を得ているように思う)。英語の記事や本にも、shukatsuがローマ字で登場している。「きちんとする、ちゃんとする」は日本人のステレオタイプの1つだけれど、「人生の終焉に対しても日本人は準備万全なのか」と、不思議がる報道もある。

とはいえ日本でも、誰もが、きちんと、ちゃんと終活しているとは限らない。最近のある調査では、終活を「既に行っている」と回答した人は1割程度。多くの人は「自分が年を取ったと感じた」ことをきっかけに取り組み始めるという。

墓碑銘も日本だと表現方法が豊富

さて、僕の骨はクォ・ヴァディス(どこへ行くか)。半生を日本で過ごし、これまでに出版した『ダーリンは外国人』シリーズなどを通じて多くの日本人と「会話」をしてきた。その「会話」が続いていくように、生まれ故郷のアメリカなどでなく、日本で墓を建てたほうがいいのかもしれない。

となると、墓碑銘を決めるのが楽しみの1つ。墓碑によく刻まれている文字は「安心立命」や「一期一会」といったものだが、「ん」という謎めいた一文字が刻まれている墓碑もあるらしい。そして「やあ」も。女優の范文雀(1948-2002年)の墓碑銘は「THATʼS YOUR STAGE, DEAREST」(出番ですよ)と印象的だ。

日本では平仮名、片仮名、漢字さらにローマ字も組み合わせられるので、表現方法が豊富。アメリカだと墓碑銘は英語になり、文字を筆記体にしたり絵を加えたりはできるが、遊べる範囲が狭い気がする。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米GDP、24年第4四半期速報値は+2.3%に減速

ワールド

グーグルの「アメリカ湾」表記変更は間違い、メキシコ

ワールド

ハマスが人質解放、イスラエル人3人とタイ人5人 引

ワールド

パナマ大統領、運河巡る議論の可能性否定 米国務長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由
  • 4
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 5
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 6
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 9
    世界一豊かなはずなのに国民は絶望だらけ、コンゴ民…
  • 10
    トランプ支持者の「優しさ」に触れて...ワシントンで…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 6
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 7
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 8
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 9
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story