最新記事
中国

【日本人学校バス襲撃】経済政策からエロ話まで、規制だらけの中国で「反日」だけ違う理由

2024年7月3日(水)11時20分
高口康太(ジャーナリスト)
習近平

習近平政権はネット世論のコントロールを強化してきた 360b-shutterstock

<日本人母子を襲った通り魔事件。亡くなった勇敢な中国人女性に「日本のスパイ」などと心ない書き込みが相次ぐと、「反日投稿規制」が発表された。これで日本バッシングは消えるのか>

「日中対立を煽り、極端な民族主義感情を挑発する違反投稿を規制」

中国大手ソーシャルメディア企業は6月29日、相次いで反日投稿規制を発表した。問題ある投稿を非公開にしたほか、一部のアカウントが書き込み禁止やアカウント閉鎖の処分を受けたという。

「これで中国ネットの反日ムードが消えるでしょ。胡さんの死は悲しいけど、日本バッシングがなくなるのは嬉しい」

中国在住の知人からこのようなメッセージが送られてきた。

本当にそうだろうか?

6月24日、上海に近い江蘇省の蘇州市で、日本人学校の送迎バスを待っていた母子を襲った通り魔事件が起きた。犯行を止めようとした中国人女性、胡友平さんが重傷を負い、事件から2日後の26日に死亡した。

身を挺して子供を守った胡さんの行為には胸を打たれるが、中国のソーシャルメディアには「(死亡した胡さんは)日本のスパイだったのだろう」「売国奴を消せ」「一番良いのは日本列島全島が沈没することだ。一日も早く日本民族絶滅を実現すべき」といった、心ない書き込みが多く見られたという(書き込みの事例は中国IT企業ネットイースの反日投稿規制に関する公告で取りあげられていたもの)。

規制はソーシャルメディアの運営企業が独自に行ったテイだが、複数の企業が同時に行動を起こしていることから当局の指示があったと見ていいだろう。

先の知人が「日本バッシング」と言ったように、ここ数年、中国のネットでは反日ムードが強まっていた。

福島原発の処理水を垂れ流す日本は許さない」というストレート系から、「俺さま、日本タワマンに住んで豪遊。足元であくせく働く日本人ワーカーはご苦労さんwww」的な金持ち自慢系、さらには「**という中国企業は日本のスパイでは」といった中国企業に飛び火系などさまざま。

中国で息苦しさを感じていた日本人が、反日投稿規制に期待する気持ちは分からなくもない。

お上主導のジャンル栄枯盛衰が繰り返されてきた

ただ、長年にわたりジャーナリストとして中国を見てきた私からすると、「またか」ぐらいの話にしか思えない。

インターネットが普及し、いわゆるネット世論なるものが成立してからはや20年あまりが過ぎたが、この間に、反日ネット世論の台頭と一時的な抑制は何度も繰り返されてきたからだ。

習近平政権はネット世論のコントロールを強化してきた。政権批判を押さえつけるのはもちろんだが、それだけではない。最近だと経済政策に関する発言はアカンとのことだ。

日本在住の中国人研究者から聞いたのだが、ソーシャルメディア運営企業からしばらく発言を慎むようにとのメッセージが届いたという。また、健康系インフルエンサーの規制も強化された。まあ、不安を煽り、高額サプリを売りさばく人が増えすぎたので押さえつけざるを得ないのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ボーイング、司法取引で罪認める方針 墜落事故巡り

ワールド

フィリピンと日本、円滑化協定に署名 安全保障で連携

ビジネス

お知らせー重複記事を削除します

ビジネス

現状判断DIは前月比+1.3ポイントの47.0=6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 2
    ルイ王子の「お行儀の悪さ」の原因は「砂糖」だった...アン王女の娘婿が語る
  • 3
    ドネツク州でロシア戦闘車列への大規模攻撃...対戦車砲とドローンの「精密爆撃」で次々に「撃破」する瞬間
  • 4
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 5
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド…
  • 6
    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…
  • 7
    世界ツアーで「マドンナ」が披露したダンスに、「手…
  • 8
    「こうした映像は史上初」 火炎放射器を搭載したウク…
  • 9
    酔った勢いで彫った「顔のタトゥーは似合わない」...…
  • 10
    夜の海に燃え上がるロシア大型揚陸艦...ウクライナ無…
  • 1
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 2
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカードの「基本概念」を根本的にひっくり返す悪手だ
  • 3
    ルイ王子の「お行儀の悪さ」の原因は「砂糖」だった...アン王女の娘婿が語る
  • 4
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」…
  • 5
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 6
    黒海艦隊撃破の拠点になったズミイヌイ島(スネーク…
  • 7
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 8
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 9
    ドネツク州でロシア戦闘車列への大規模攻撃...対戦車…
  • 10
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 5
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 8
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
  • 9
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 10
    「何様のつもり?」 ウクライナ選手の握手拒否にロシ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中