【日本人学校バス襲撃】経済政策からエロ話まで、規制だらけの中国で「反日」だけ違う理由
1~2年前はアイドルファン規制というものもあった。オーディション番組で推しを勝たせるためにファンがウン十億円単位で集金する、その金を持ち逃げする、ライバルとの抗争が勃発する......といった騒ぎが目立つようになったためだ。
今年は何を取り締まるのか? 中国共産党中央サイバー安全和情報化領導小組弁公室は毎年、旧正月明けに「今年のネット清朗キャンペーン・タスク」を発表している。
2024年はというと、AI(人工知能)を使ったフェイクニュース対策が多いが、他にも「フィギュアやアニメ・マンガの同人作品という形式でのポルノコンテンツ配布」「ネット配信でのギリギリなエロトーク」といった内容も。
だいたい、盛り上がったジャンルとコンテンツは当局が規制するというのが定番だ。規制が入ると、目立ったアカウントが凍結され、他の人々もほとぼりが冷めるまでしばらく大人しくする。
お上主導のジャンル栄枯盛衰が繰り返される中で、比較的長生きしてきたのが反日コンテンツである。
中国政府としては「外国と比べれば中国はまだまし」という印象を人民に植え付けたいと考えている。例えば、コロナ禍では米国や日本の民は塗炭の苦しみにあえいでいるとの情報を流しまくり、「隔離連発の中国のコロナ対策もしんどいけど、日本や米国よりはまだまし」と感じた中国人が多かった。
反日や反米のコンテンツは「中国はまだまし」という印象操作にもつながるし、何より批判の矛先が中国共産党に向きづらい点がメリットだ。
というわけで、「日本人学校はスパイ養成所」といったトンデモ情報やそれに伴う反日感情の高まりについて、日本政府が対応を申し入れても知らんぷりだったというわけだ。
日本からの申し入れをガン無視する際の便利な文句もある。それが「人民の感情を傷つけた」だ。中国政府としては反日を煽っていませんが、人民が怒っているので仕方がないんです、というロジックである。
香港大学「中国メディアプロジェクト」の調べによると、1959年から2015年の間に、中国共産党の機関紙「人民日報」には「中国人民の感情を傷つけた」とのフレーズが143回登場した。対象国として最多は日本で51回。2位の米国35回を大きく上回っている。
ときおり行き過ぎがあると今回のように規制するが、すぐに「人民が怒っているので我々はどうしようもありませんな」が基調ラインに回帰していく。
この無限ループから脱出する方法はないものか。「感情を傷つけられた日本人民」としては抜本的な対策を期待したい。
[執筆]
高口康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版新書)、『プロトタイプシティ』(共著、KADOKAWA、2021年大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実』、『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国』(編著、さくら舎)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。