「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理
ARABIAN MIGHT
サウジアラビアはG20諸国で屈指の経済成長率を誇る(首都リヤドの金融地区) AHMED FAHMI/ISTOCK
<アメリカと協力関係を続け、その一方で中ロに接近、屈指の経済成長率で巨大な影響力を手にしたサウジアラビアが構想する「ビジョン2030」の未来とは>
ジョー・バイデン米大統領が11月の大統領選に向けて国内各州で激戦を繰り広げるなか、ホワイトハウスも世界で重要性を増すプレーヤーと影響力を争っている。
その1つが、実は長年にわたるアメリカのパートナー、そして国内外の政策で大きな転換を図ろうとしている国、サウジアラビアだ。
サウジアラビアは地政学的に大きなカギを握るだけでなく、アメリカの選挙で重視される問題でも多大な役割を担っている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が選挙戦の大きな論点である今、中東では極めて重要な位置を占めている。さらには、世界最大の原油輸出国として原油価格を決定する強力なプレーヤーでもある。
インフレはアメリカの有権者の最大級の関心事だから、サウジアラビアはこの点でも重要な存在になり得る。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は38歳。世界で最も若い事実上の国家元首の1人で、王国に定着しつつある民族主義的な動きの推進力だ。父のサルマン国王(88)は2015年から国を率いてきたが、健康に懸念が高まっている。
サルマンは7番目の息子ムハンマドを17年に皇太子に、22年には首相に指名し、権力委譲を進めてきた。
頭文字を取って単に「MbS」と呼ばれることも多いムハンマドの主導する変革は、国内に大きな変化をもたらしている。グローバル化の傾向がさらに強まり、石油依存からの脱却が進み、ムハンマドが掲げる野心的な「ビジョン2030」計画に沿った取り組みも行われている。
こうした変化は、アメリカのライバルである中国やロシアを含むほかの主要国とのより強固な関係の追求にもつながる。サウジアラビアとアメリカの政府当局者は、両国のパートナーシップの重要性を強調し続けている。
だが最近の対立や、協力関係の将来をめぐって行われている面倒な交渉から、中東でアメリカの戦略的な足がかりとなってきたサウジアラビアとの関係の行く末について、強い疑念が生じていることも確かだ。
「注目点の1つは、サウジアラビアにとって最大の石油輸入国であり、武器や技術を無条件で供給してくれる中国の重要性が増していることだ」と、サウジアラビアの政治専門家アリ・シハビは本誌に語った。
シハビはシンクタンク「アラビア財団」の設立者で、現在は「ビジョン2030」に盛り込まれた未来志向の巨大プロジェクトであるNEOMの顧問を務める。
「もう1つは、対米関係が当てにならないと考えられていること。ワシントンの政治情勢によって大きく変わり得るからだ」