「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理

ARABIAN MIGHT

2024年6月21日(金)14時33分
トム・オコナー(本誌中東担当)

newsweekjp_20240620021111.jpg

イスラム教の聖地メディナの広場 FADEL DAWOD/GETTY IMAGES

両国の関係が築かれたのは、サウジアラビアが生まれたばかりの頃にさかのぼる。王国の創始者であり、国名の由来でもあるアブドゥルアジズ・イブン・サウード国王は30年にわたって戦争を指揮し、1932年にアラビア半島の大部分を統一した。

両国の関係は第2次大戦中に戦略的パートナーシップへと拡大し、冷戦期にはさらに発展した。

73年の第4次中東戦争でイスラエルを支援したアメリカにサウジアラビアが石油禁輸措置を取るなど大きな対立もあったが、それでもサウジアラビアは中東でソ連の影響力に対する重要な防波堤の役割を果たしてきた。

01年の米同時多発テロにサウジアラビアが関与したという疑惑(19人のハイジャック犯のうち15人がサウジアラビア国籍)でさえも両国関係の破綻にはつながらず、21世紀の対テロ戦争を通じて関係はさらに強固になった。

サウジアラビアは、中東全域でイランの影響力に対抗するアメリカの取り組みの中心だった。

同盟国を増やすという選択

世界有数の原油輸出国であり、メッカとメディナというイスラム教の2大聖地を抱えるサウジアラビアの特別な影響力から、アメリカは長く恩恵を受けている。サウジアラビアも地域的な紛争では、米国防総省の支援を受けてきた。だが近年は、両国の利害が分かれ始めている。

分裂はバイデン政権下で特に顕著になった。台頭する皇太子と親密な関係を築いた前任者のドナルド・トランプとは異なり、バイデンは強硬路線を取っている。

20年の大統領選では、サウジアラビアの反体制ジャーナリストだったジャマル・カショギが殺害された事件に絡んで、サウジアラビアを世界の「のけ者」にすると発言。

大統領就任の直後には、サウジアラビアがイエメン内戦に介入して民間人に犠牲が出ることを懸念し、攻撃的武器の販売を停止した。

バイデンは22年7月にサウジアラビアを訪れたが、関係修復にはほとんど役立たなかったようだ。サウジアラビアは主要産油国でつくるOPECプラスのほかの加盟国と共に、石油増産を求めるアメリカに真っ向から背いた。ウクライナに侵攻したロシアへの制裁によるエネルギー高騰のさなかだった。

バイデンへの冷遇とは対照的に、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は22年12月、初の中国・アラブ諸国サミットをサウジアラビアで開き温かい歓迎を受けた。

その数カ月後、サウジアラビアは北京の仲介でイランと国交を回復し、中国とロシアが大きな影響力を持つ2つの多国間ブロックに参加する。上海協力機構とBRICSだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中