最新記事
インタビュー

車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く

2024年3月25日(月)11時30分
小暮聡子(本誌記者)

newsweekjp_20240324080542.jpg

ハワイのハレクラニホテル近くにあるABCストア内に貼られたサイン。5段の階段横の昇降リフトに、車いす利用者を「喜んでお手伝いします」と書かれている

――ADAは、ハード面での規定のほかに「介助せよ」ということまで明記しているのか。アメリカの場合、例えば今回の映画館の例で言うと、映画館の従業員に介助する義務も発生する?

アシストをリクエストできる状態にはなっている。必要なときには事前に言ってください、相談窓口がありますよと明示されている。障がい者人口がとても増えているなかで事業者として「喜んでお手伝いしますよ!」と言ったほうが、障害当事者もそのポジティブな体験をもとに、リピートしたり人を連れてきたりと、事業者にとって新たな客層の獲得、そして売上増にもつながるはずだ。

一方で、今すぐできることとして、事業者側は「アシストが必要な場合は事前に連絡してください」とアナウンスしたほうが良いとも思っている。連絡なしにやって来て、時間がないなかで突然アシストしてくださいと言われれば、それは無理ですよとなるのは当然でしょう、という思いもあるだろう。

なので、障がい当事者としては、映画館なら前日に連絡するとか、少なくとも2時間前などに行って、この時間のこの席を買いたいのですが、こういった点で手を貸していただけますかと相談し、話し合いをしてみるのはどうだろう。何にしても建設的な対話をするためには、互いに心と時間に余裕が必要だと思う。

 
 


――感覚的な質問になってしまうが、車いすに乗ることになった人たちは、それまでのようには外に出かけなくなってしまうものなのか。

中途障害者がどのくらいいるかは分からないが、それなりに多いと思う。車いすユーザーは日本国内だと約200万人、全人口の1.57%いると言われている。ということは、200人とすれ違ったら本来なら3人の車いすユーザーとすれ違っているはずだが、実際には出会わない。

もっと身近な例では、日本で最も多い苗字の佐藤さんは184万人くらいと、車いすユーザーとほぼ同数だが、自分の知り合いに佐藤さんがたくさんいても、車いすユーザーはほとんどいないだろう。車いすユーザーはみんなと接する機会が極端に少なかったりする。公共交通機関に乗りづらいとか、坂道とか段差とか、つまり社会の側にある障害(バリア)によって外出できていない人たちも多い。

――車いすユーザーの側にも、外に出ると言うことに対して、心の中にバリアが出来てしまうのか。

じろじろ見られるのが嫌、という人も中にはいた。当事者ももっとメンタルが強くならなきゃね、という話ではあるのだが、みんなそれぞれ状況が違うので、一概には押し付けられない。中途障害の中には過去の自分は立って歩いて走っていた。それが突然歩けなくなって、周りの人に見られたくない、と思ってしまう人もいた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英首相私邸などの不審火、21歳男を放火容疑で逮捕

ビジネス

ソフトバンクG、1―3月期純利益5171億円 通期

ビジネス

日産、追加で1万1000人削減 従来の9000人と

ビジネス

イオン、米国産100%使用の新商品発売へ 6月6日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 8
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中