最新記事
インタビュー

車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く

2024年3月25日(月)11時30分
小暮聡子(本誌記者)
車いす

MRS―GETTY IMAGES

<映画館での車いす席利用はそんなに不便なの? 車いすユーザーに率直な疑問をぶつけると、日本では法律の下「とりあえず規定の数を設けているだけ」とも思える状況が浮かび上がった>

3月半ば、車いすユーザーの女性が都内の映画館で鑑賞する際、従業員にリクライニングができる席に移乗する介助を頼んだところ、鑑賞後に従業員から「この劇場はご覧の通り段差があって危なくて、お手伝いできるスタッフもそこまで時間があるわけではないので、今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思う」と言われて「すごい悲しかった」と、映画館の名前と共にX(旧ツイッター)に投稿。

これを受けて映画館側は「不適切な発言」を謝罪したが、ネット上では映画館の従業員に介助を求めるのは「行き過ぎだ」「わがまま」との声が上がり、炎上する事態となった。

newsweekjp_20240324235619.jpg4月1日には改正障害者差別解消法が施行され、これまでの行政機関に加えて、民間事業者にも障がい者への「合理的配慮」の提供が法的に義務化される。政府によれば、合理的配慮の提供とは、「個々の場面で障害のある人から<社会的なバリアを取り除いてほしい>という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をする」ことだという。

ただし、事業者側に「負担が過重」な場合は除外され、一方で「過重な負担」かどうかの判断は明確にはされていない。

映画館など外出先での「車いす席」の利用について、当事者は普段からどのように感じ、行動しているのか。車いすユーザーから見た、当事者側と、社会側にある「バリア」とは。車いすユーザーの住環境整備や、外出する機会の創出に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボの代表理事で、自身も車いすを使って生活している大塚訓平氏(写真)に、本誌・小暮聡子が聞いた。

 
 


――今回、車いすで映画館を利用することについて、当事者が声を上げたことで見えにくい状況が可視化された面がある。これまで、車いすで映画館を利用するに当たって、困ったことやハードルに感じたことはあるか。

僕が映画館に行く際には妻と一緒なので、そもそも不便さはあまり感じていないけれど、「車いす席」はシアターによって設置位置、作り込み方が違う。一度、最前列の車いす席で観たとき、スクリーンが近すぎて、見上げながら鑑賞しなくちゃいけなかったから、首と肩が凝って、映画鑑賞後に気持ちが悪くなってしまった。

というのも、人によって乗っている車いすに違いはあるけど、僕のは背もたれが腰くらいまでしかなくて、一般座席のようにもたれかかることができないから、長時間車いすのままで映画を観ること自体がかなり身体的に苦しい。

もちろん、車いす席を用意してくれていることは有難い。だけど、そこが本当に観やすいどうかを、検証した上で設置したとは言い難い状況のシアターもある。単純に、車いすで安全にアプローチできるスペースだけが用意されている、という印象の作り方が多い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中