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車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く

2024年3月25日(月)11時30分
小暮聡子(本誌記者)

――今回の映画館の件で、自分が高齢になってもし膝が悪くなって車いす生活になったとき、1人で映画館に行っても今までのようには楽しめないのかと考えた。

人間、年を重ねれば何かしらの障がいを感じるようになる。足が動かなくて歩けないとか、目が見えづらいとか、耳が聞こえないとか。みなさんが将来そうしたバリアを感じた時にすぐにバリアフリー化するのは難しい。

だからこそ今のうちからバリアフリー化しておくことは、将来みなさんが安心して暮らせる・余暇を楽しめるための投資として捉えていただくのが一番ポジティブな考え方だと思う。

日本の障がい者人口は、身体、精神、知的障がい者を合わせると、既に1000万人を超えていると言われている。そうなってくると、障がい者がいよいよビジネスの対象にもなってくる。障がい当事者が映画館やスタジアムに行きやすい環境をみんなで整えていきましょうとなると、移動経路で交通機関を使い、外で飲み物を買い、ランチもすればそれも「消費」になる。

今まで外出に困難さを感じていた人たちが消費し始めるので、経済が回り始める。事業者や国民全体がそういう意識を持ってくれればこそ、障がい者が直面する困難さや不利益を社会全体で解消していけるんじゃないかなと思う。

 
 


――車いすに乗っていても、どこにでも行けるんだ、と思えれば車いすユーザーも外に出始める。一方で現状、法律があるからと申し訳程度に車いす席を設けている事業者は、そもそもその席を利用する人はそんなにいないだろう、という前提で作っている?

残念だけれど、そう思っている事業者もいるかもしれない。と同時に障害当事者の利用実態を知らずに、悪意なく良かれと思って席を作ったケースもあるだろう。車いす席を専用席にせず対応席にして、対象者がいない場合は壁から自動的にシートが出てくるような、カッコいい仕組みにしたり、段差のないエリアにリクライニングのできるシートを設置したりすれば、利用する人も増えると思う。

もっと踏み込んだ理想を言うと、例えばアメリカには1990年制定のADA(Americans with Disabilities Act:障がいを持つアメリカ人法)という法律があって、スタッフのトレーニングを包括的、継続的に実施すべきとしている。

ただ単にポリシーを確立しただけでは、それをしっかり認識していないスタッフがいるかもしれない。新しくパートで入って来る人もたくさんいるので、どれだけハード面を整えても、マニュアルがあっても、知らない人がいれば問題が発生する。だから、ハード面のバリアフリーだけではなくて、ソフト面のバリアフリーも、トレーニングでしっかり取り組んでいかなければいけない、と書いてある。

ADAは広範囲の事業カテゴリに渡り、ルールが踏み込んで明確化されている法律で、例えば飲食店の入り口には段差があると営業許可を出さないとか、車いす対応の駐車場やトイレがないとダメとか、日本でいう建築確認申請時にアクセシビリティのチェックが厳しく入ったりする。

日本の場合は「努力義務」というワードを使うことが多く、やってもやらなくてもいいと捉えてしまう事業者も多くいたはずだ。緩やかに始めるのは良い場合もあるけど、今度4月1日から義務になりますよとなったときに、追いついていけず、ある種のアレルギー反応だったり、世間からの批判の対象になってしまったりする。障害者差別解消法は2016年から始まっているので、もしこの7年間、義務化で走ってこられたら今の社会は変わっていたかもしれない。

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