最新記事
ウクライナ情勢

【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言

INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT

2023年8月22日(火)17時50分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

230801p26_BFT_05.jpg

スナイパーのビタリー(5月10日) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

建物の高層階や塹壕に身を隠し、500メートルほどに迫った敵の部隊を観察すること2時間。ビタリーは歩兵が移動を始めたタイミングで引き金を引く。それに合わせて、そばで待機する隊員たちが一斉にマシンガンを放つ。録画機能を備えたスコープの映像を見せてもらうと、逃げ惑った末に倒れ込む敵兵の姿があった。

弁護士を志望していたものの、機械に触れているのが性に合うと、この道を選んだビタリー。故郷に残した愛車の日本製オートバイの写真を眺めながら、バフムート近郊での待機時間を過ごしていた。

一世代前の兵器も総動員された東部戦線で、ひときわ異彩を放ったのが小型の無人機ドローンだ。カミカゼと命名されたドローンで自爆攻撃を仕掛けるロシア軍に対し、ウクライナ軍のドローンは主に偵察とミサイル投下の役目を担ってきた。

「ウクライナ軍は頭で戦うのさ」と語っていた彼らの前線本部を目にする機会があった。バフムートから20キロ。地方に行けばどこにでもありそうな農村の民家だった。

頑丈な鉄の扉を通り、建物の地下へ降りる。壁の大型モニターに映るのは、ドローンのカメラが捉えたバフムート東側のロシア軍占領地だ。サブモニターに表示されたドローン操縦者のイニシャルは18人分。その1人に向かって司令官が話す。「あの建物が怪しい。回り込んでみろ」

ドローンは斜め右から旋回し、建物の窓を捉えた状態でホバリングする。そしてロシア兵が潜んでいるかどうか、白黒がはっきりするまで監視を続ける。

別の基地にあったのは、ドローンで投下するミサイル用の羽根を作る3Dプリンターだった。当初、1台だけだったプリンターはその後4台に増えた。「クククク」と小刻みに動くプリンターの音と「ドドドド」と鳴る発電機の音が、インフラが途絶えた前線の村で交錯していた。

屋外ではロシア軍のドローンを攻撃する訓練も行われていた。銃弾が通る穴がない、角材状の銃で遠く離れたドローン目がけて電磁波を照射し、制御不能にするのだという。銃を構えていたアントン(25)は「1丁90万グリブナ(約340万円)もするんだぞ」と言って自慢していた。民生のハイテク機器と招集されたITエンジニアの兵士たちが、東部戦線で日夜奮闘していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中