ウクライナ、知られざるもう一つの戦い 長期にわたるストレスで家庭内暴力が大幅増加
リューボフ・ボルニアコワさん(写真)は1月、ウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で遺体で発見された。5月撮影(2023年 ロイター/Alina Smutko)
1月8日夜、リューボフ・ボルニアコワさん(34)の遺体がウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で発見された。検視官は75カ所の打撲傷が確認されたと報告している。
リューボフさんの親族と隣人によれば、夫のヤコフ・ボルニアコフさんは軍を脱走し、事件前の1カ月間は自宅アパートに身を潜めていた。リューボフさんの死に至るまでの2週間、夫は酒浸りになり彼女を何度も殴っていたという。
「腕、顔、足、殴られた跡がない部分がなかった」
リューボフさんが死亡した数時間後にアパートに到着したおばのカテリーナ・ウェドレンセワさんは、そう振り返った。
ドニプロ警察の広報官は、リューボフさんの死に関して刑事捜査が行われていると述べ、詳細については明らかにしなかった。
2022年2月にロシアによる侵攻が始まった当初は、ウクライナにおける家庭内暴力(DV)の報告件数は減少していた。数百万人が戦火を逃れて避難したためだ。
だが今年に入り、避難していた家族が自宅に戻ったり新たな住居に落ち着くなかで、DVの件数は急増しているという。ロイターが検証した、これまで報道されていなかったウクライナ警察のデータから明らかになった。
データによれば、今年1─5月に報告された件数は昨年同時期と比べて51%増加した。過去の最多記録である2020年よりも30%以上も多い。専門家は、この年はコロナ禍によるロックダウンが背景にあると指摘していた。
ロイターがDV問題に取り組む当局者や専門家10数名に取材したところ、こうした増加は、ストレスや経済的な困難、失業、侵攻に関連したトラウマが原因だという。事件の大半では、被害者は女性だ。
ウクライナでジェンダー政策担当委員を務めるカテリナ・レフチェンコ氏は、5月にロイターのインタビューに応じ、「(DVの増加は)心理的な緊張と、多くの困難のためだ。人々はすべてを失った」と述べた。
警察では、2023年1月から5月までに34万9355件のDV事件を記録している。これに対し、2022年の同時期は23万1244件、2021年は同19万277件だった。
ロイターの取材に応じた専門家や弁護士の大半は、戦争が続く限りDVを巡る状況は悪化し、戦争終結後も、前線から戻った戦闘員が負った心的外傷のために長期化するのではないかと懸念している。