ウクライナ、知られざるもう一つの戦い 長期にわたるストレスで家庭内暴力が大幅増加
中継地点
ドニプロは、ロシアに占領された地域から逃れる人々と、東部や南部の前線に向かう人々の中継地点となっている。
この街では、政府と国連人口基金(UNFPA)が、DVから逃れた人のための救援センターを運営している。昨年9月の開設から5月中旬までに800人に支援を提供したが、その大半は女性だった。
救援センターで働くケースワーカーによれば、支援を受けた人のうち警察に被害を届け出たのは約35%にすぎないという。DV問題に取り組む専門家や弁護士が指摘するように、警察のデータが示すよりもDVが広がっている可能性がある。
救援センターの心理学者テチャナ・ポゴリラ氏によると、戦火を逃れてドニプロに避難してきた人々のなかには、不慣れな土地にいるせいで、自分を虐待する者への依存を強めてしまうDV被害者も存在するという。
「ドニプロに逃れてきて、一家が1つの部屋で暮らすことになる場合もある」とポゴリラ氏は語る。「仕事が見つかればいいが、見つからずに生活が苦しくなる人もいる。さらにウクライナを巡る国際情勢と不安が加われば、ストレスと対立が増大する」
戦争により、国の財源も限界に近づいている。
前出のレフチェンコ氏は、女性のためのシェルターの一部は戦火を逃れてきた人々を収容するために転用されており、ジェンダーを理由とする暴力への対策に割り当てられた国家予算の一部が防衛費に振り向けられていると話す。
ジェンダー関連暴力対策の予算は、2021年の約1000万ユーロ(約15億6000万円)から、今年は420万ユーロまで減少したとレフチェンコ氏は言う。
ウクライナ検察庁で子どもの利益保護及び暴力対策局を率いるユリア・ウセンコ氏によると、警察・検察当局は、前線から帰還する心的外傷を負った兵士たちを巡る潜在的な課題を警戒してきたという。
ウセンコ氏は、検察庁は2月、DV関連の裁判手続きを検証する部門を設立したという。
だが、社会福祉関係者は財源不足を懸念している。
避難民のためのシェルターを運営するドニプロ社会福祉センターのリリア・カリテイウク所長は、「DV発生率が非常に高くなると予想している」と語る。