ロシア潜水艦隊に落ちる影...その将来は? 専門家が想定する2つのシナリオ
RUSSIA’S WEAKENED NAVY
REUTERS/Yoruk Isik
<冷戦終了後もアメリカに次ぐ水準を持つといわれながら、経済制裁で新鋭艦建造も技術開発もままならず>
「まっとうな海軍なしには、ロシアに国家としての未来はない」──2009年、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領(当時)は海軍力増強の包括的な計画推進の必要性をこう力説した。
それから十有余年、ロシアの水上艦隊は期待に応えていない。昨年4月の黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没などメディアが派手に取り上げる惨事が続き、ロシア唯一の空母は度重なる火災にたたられるありさま。比較的新型で小型の一部の艦艇を除けば、ロシアの水上艦の多くはおおむね標準以下と見なされている。しかし、水面下に隠れるロシアの潜水艦は今も世界のトップクラスと言われている。
だが今のロシアにとってはウクライナ戦争に勝つことが全て。この戦争では出番が少ない潜水艦の性能向上は後回しにされかねず、西側の制裁も技術開発に歯止めをかけそうだ。
ロシアの潜水艦は水中性能ではアメリカに次ぐ水準だと、ジェームズ・フォゴ元米海軍大将は言う。NPO・核脅威イニシアチブによると、ロシアが保有する潜水艦は通常動力(ディーゼル機関)と原子力を合わせて推定58隻。うち17隻は攻撃型原子力潜水艦、9隻は巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)とみられる。
ロシアの潜水艦の中でも、ヤーセン型とその改良版であるヤーセンM型のSSGNは「今日のロシア海軍の至宝であり、ことによると今日のロシアの軍事技術の頂点だろう」と、米シンクタンク・ランド研究所の専門家エドワード・ガイストは本誌に話した。これらの潜水艦はロシアが誇る極超音速ミサイル「ツィルコン(ジルコン)」、それにウクライナ攻撃に使われた長距離巡航ミサイル「カリブル」を搭載できる。
「太平洋領域を含む海軍発展を」
ロシアの国営メディアは昨年12月、海軍に近々新たな原子力潜水艦が数隻、納入されると伝えた。12月に就役式が行われたボレイ型原潜「スボロフ大元帥」もそこに含まれる。
ロシアは潜水艦の攻撃能力向上に新たに資金を投入する方針を発表しており、国営メディアは今後数年のうちに核攻撃が可能な「超高速」魚雷を搭載できる潜水艦が数隻導入されると伝えている。
冷戦終結後は技術的・資金的な理由などで大型の水上艦の建造が困難になり、ロシア海軍は潜水艦部隊の強化に注力するようになったと、米海軍分析センターのドミトリー・ゴレンブルグは話す。
ロシア海軍はその前身の旧ソ連海軍時代から「水中」を強みとし、原潜の技術は今でも「世界のトップレベル」だと、英国際戦略研究所(IISS)のニック・チャイルズ上級研究員は言う。