ロシア潜水艦隊に落ちる影...その将来は? 専門家が想定する2つのシナリオ
RUSSIA’S WEAKENED NAVY
冷戦時代に比べ現代的な原潜の保有数は減ったにしても、ヤーセン型の攻撃能力は「非常に高く、より旧式の潜水艦と合わせて、海上でも陸上の標的に対しても、NATOの脅威となる」と、チャイルズはみる。
とはいえ、理論上は優れていても、ソ連時代の潜水艦がよく整備されていて今も機能するかは保証の限りではないと、ハーグ戦略研究所(HCSS)のアナリスト、フレデリック・マーテンズは指摘する。
ロシアの潜水艦の性能は「実戦で十分に検証されたことがない」と、チャイルズも言う。
ただ潜水艦隊も含め、ロシア軍には「無謀」な気風があり、NATOの常識では考えられないような危険も冒すと、HCSSの上級アナリスト、ポール・ファンホーフトは言う。
対ウクライナ作戦において、ロシア海軍の役割は非常に限定的だ。核搭載可能な潜水艦部隊は北方艦隊と太平洋艦隊に分かれており、ウクライナ戦争で実際に直接的な役割を果たしたことはない。
これらの潜水艦は「アメリカに対して戦略的核攻撃を行う」ことが「第一の目標」だと、ジョージ・C・マーシャル欧州安全保障研究センターのグレアム・P・ハードは言う。ウラジオストクを拠点とする太平洋艦隊は4月に大規模な軍事演習を実施。ロシア国防省は、臨戦態勢の「緊急点検」を終えたと発表した。
クレムリンの発表によると、軍事演習の報告をしたセルゲイ・ショイグ国防相に対しウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアの「優先事項」は引き続きウクライナの戦争だが、「太平洋作戦領域を含む海軍を発展させるという目的は依然として意義がある」と語り、「艦隊の資産の一部を他の場所の紛争で使えることは明らかだ」と付け加えた。
ロシアの絶対的優先事項
しかし、ウクライナ戦争の影響はある意味でロシア海軍にも及んでいるか、少なくとも及ぼうとしている。ウクライナを支援する西側諸国は、ロシアの戦争遂行能力を損なわせるために制裁を科している。昨年12月に米国務省は、船舶関連事業者など海軍関連団体を制裁対象に追加した。
「原材料がなく、産業基盤を維持できず、人手は(ウクライナの)戦争に取られて」、ロシアが先進的な潜水艦の開発を維持することはますます困難になり、「西側諸国と肩を並べる」新世代の潜水艦など、将来を見据えた開発に投資する能力は縮小するだろうと、フォゴは言う。
一連の制裁は、ロシアの防衛産業が欧米の技術に依存していることを浮き彫りにしたという見方もある。欧米の技術にアクセスできなければ先進的な潜水艦を開発するリソースはほとんどないと、ハードは言う。例えば中国の技術では、ロシアの要求を満たすことはできないだろう。